不明
「し、しかし……」
桃鈴様からの誘い。普通なら、それがどんな場所であろうと、即座に返答し、ついていったところではあるが、今回ばかりは話が違う。死が付きまとう戦争なのだ。親に確認を取らないといけないのは当然のことであり、それに親が合意しないのも当然のことである。
「親御さんのことなら心配ありません。既に私から合意をとっています。遠慮なく自分の思いを優先してくださいませ」
横から異能大臣のそんな言葉が耳に入る。
(既に確認を? 桃鈴様は前日以上前からこのことを考えていたのか?)
俺たち4人に三山武。戦争に連れて行くのなら申し分ないメンツではあるが、所詮は超高校級レベルならという話であり、プロとの差は神奈川派閥での件と黒ジャケットの件で痛感した。桃鈴様もなんとなく理解しているはず。
(なのに、なぜまだ私たちを誘ってくださる? そもそもなぜ親たちはこのことを了承したんだ?)
「自分はやりますよ! 東京派閥に三山武ありってところを見せてやりてぇ!」
「俺もやります!」
「……私も」
こういった件に初めて関わることになる三山は食い気味に了承し、もともと頭が弱い優斗、桃鈴様に特に盲目的な友隣も続く。しかし、そこから先は続かず、俺と宗太郎は言葉を紡ぐことができずにいた。
「……? お前らどうしたん?」
いつまでたっても口を開かない俺たちに優斗が声をかける。その声色は疑問に満ち溢れており、この違和感に気づいていないようだった。
「……すみません。少し、2人で風に当たってもいいでしょうか」
「……いいよ! ゆっくり考えて!」
桃鈴様から了承をもらい、宗太郎を連れて、病室の外の廊下に出た。
「宗太郎。今回の件……」
「おかしい……よな?」
やはり、俺と同じく、宗太郎も今回の違和感に気づいていた。そして、その原因も大方わかっていた。
「異能大臣だよな?」
「ああ、間違いない……それなら、すべての辻褄が合う」
桃鈴様は本来心優しいお方だ。私たちがお願いしてついていくことはあれど、自身から来いとは中々言えないタイプ。なのに……
「……どうする? 断ってみるか?」
「それは論外だ。異能大臣にわざわざ桃鈴様と2人っきりになるチャンスを与えているようなものだし」
「じゃあどうするよ?」
「……今は了承するしかない。だが宗太郎。この件は俺たちだけの秘密にしておこう。変に3人に話して、混乱させては本末転倒だからな……お互いに異能大臣を監視していこう」
再び病室に戻った俺にできることは、「はい。分りました」と言うことだけだった。