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チクタクチクタク その2

 桃鈴様の病室に入った時、不謹慎だが、俺を含め、騎士団は全員多かれ少なかれ、嬉しいと言う感情を抱いていたはずだ。


 実際、病室のドアを開き、下半身はベッドに埋まっているものの、上半身を起こし、いつものように笑いかけてくれるその姿を見て、深い海の底に沈んでいた心が救済される思いだった。


 ただ、どうしても、人間の目線と言うのは、それ以外の見慣れていないものに目線が向いてしまうものだ。


 美容室と言う真っ白い空間に似合わない黒いスーツにネクタイをつけ、ある程度歳をとった風貌ながらも、顔には剃り残し等がなく、清潔感が感じられる男。


(異能大臣……!!)


 忘れもしない。俺と桃鈴様の平穏が壊れた原因、田中伸太がいなくなった後の神奈川派閥へ行った時、護衛対象として同行した人物だ。


 あの襲撃のせいで、桃鈴様はおかしくなってしまった。常に笑顔を浮かべることがなくなり、人生に疲れたような雰囲気をまとってしまった。だからこそ、今あの頃のような笑顔を浮かべてくれたのは特別に嬉しかった。


 だから、そんな中に不純物が存在するのは許せない。しかし、話を聞くと桃鈴様から連絡を入れて異能大臣を呼んだらしい。


(桃鈴様が呼んだのなら……何か考えがお有りなのだろう)


 飲み込むしかない。そう思っていたのだが、次に放たれた桃鈴様の一言は許容しようとする俺の考えを霧散させるものだった。


「僕ね……新潟派閥との戦争に行くことにしたんだ!」


 頭が真っ白に染まる感覚がする。床を踏み締める足先からふわふわと浮く。


「何を……言っているんですか?」


「言葉通りだよ。ニュースの速報で見たでしょ? 新潟派閥が東京派閥に攻め込んだやつ。まだ世間には公表されてないけど、近いうちに新潟派閥に進軍するんだよ。そこに僕、選ばれたんだ!」


 言っていることはわかるし、戦争の切り札として桃鈴様に呼び声がかかるのも理解できる。しかし、今は――――


「てめぇ!! ふざけてんじゃねぇよ!!」


 俺の思考が完結する前に、優斗は異能大臣の胸ぐらに掴みかかり、かなりの力で壁に叩きつけていた。


「ちょっと、落ち着いて……」


「これが落ち着いていられるか!! 桃鈴様の状態が見えてねぇのか? どこをどう見たら戦える体だと思うんだ!! それをよりにもよって戦争だぁ? ふざけんのも大概にしろよ!!」


「……優斗、病院よ」


 声と体を荒らげる優斗の肩に手を乗せ、友燐が止めにかかるが、その手には青筋が浮かんでおり、友隣も怒りを抑えているのがわかった。


 こんな状態の女性を戦争に連れて行くなんて、正気の沙汰ではない。優斗と友隣の反応は極めて当然だ。


「落ち着いてよー」


 等の本人は至って冷静。いつも通りで不安がった態度もとっていない。


「落ち着いてって……ですが!」


「僕が言ったんだよ」


「……え?」


「僕が言ったんだぁ……連れて行ってって」


 雰囲気が変わる。桃鈴様を中心に、何か……うずまきの中にいるように、吸い込まれていく感じがする。


「桃……鈴様?」


(いつもと様子が――――)


「だからさ、一緒に来てよ」


 おもむろに、桃鈴様が俺たちに向かって手を伸ばす。







「あなたも一緒にね? ()()()()







 三山。その前を聞いた俺はハッとなり、いつの間にか開けられていた病室のドアの方に振り向く。





「あは……一体どういう騒ぎなんですかね?」





 そこには、今は亡き田中伸太のかつてのクラスメイト、三山武がそこに立っていた。


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