東京派閥、戦争と……会議にて
東京本部、その会議室では、異能大臣を含めた重役同士での熱い会議が行われていた。
「……では、どうする?」
既に会議が佳境に入っており、そんな中、この場での最高権力である異能大臣に主導権が渡る。
「結論として、四聖と五大老の方々を主戦力にするのは確定。他の実力のある兵士も連れて行きましょう……で? 同盟相手の方はどうなのですか?」
外務大臣が亡くなってから、その役割を代理でこなしている人物に目を向ける。無論、この人物は異能大臣がチョイスした人選であり、当然のように異能大臣の息がかかっている。なので代理ができようが、異能大臣の政権が揺らぐことはない。
「代表である黒のクイーンはこの戦争に参加しようとする協力的な姿勢が見えます。ですが、神奈川派閥が協力的と言うわけではありません。まだまだ神奈川派閥は満身創痍で、立て直せているわけではありませんからね。助けは期待しない方がいいでしょう」
「ちっ、こういう時のために同盟を結んだのに……神奈川派閥も落ちたもんだな」
どこからか罵倒の言葉が聞こえてくる。そう感じるのはしょうがないことなのだが、会議を円滑に進めるためにもそういうことを言うのはやめて欲しいと思う異能大臣なのであった。
「……わかりました。では変わらず、四聖と五大老を主戦力にして……」
「あ……あの!!」
新潟派閥を迎え打とう。それで結論を出そうとしたその時。ある1人の人物が手を挙げた。
「なんですか?」
その人物は最近東京派閥上層部に入った新参者。会議に集まった中でもぶっちぎりの新人であった。
「おい! 大臣の前でお前……」
「ですが……」
「良いのです。聞きましょう」
大臣に対する意見に、新人の先輩が待ったをかけるが、そこはさすがの異能大臣。先輩をなだめつつ、新人の意見を聞く姿勢をとる。
「あ……はい! あの、今回の戦争の戦力の件なのですが……」
そこで、新人は一呼吸置いて……
「"彼女"を戦力に置くのはどうでしょうか」
場がシーンと静まり返った。
「……おい。口を慎め」
次に来るのは怒りの視線。上司が押し黙った時のような、そんな気まずさ。
「ですが! 防衛基地での映像を見たでしょう! 今回の新潟派閥は全力です! 『龍兵隊』に龍ヶ崎震巻、黒ジャケットにグリードウーマン。さらになぜか2人目の黒ジャケットまで現れ始めた。新潟派閥の本気度は異常です! まだ投入できる戦力があるのなら、渋るべきではないと思います!」
新人が放った衝撃の一言は、会議室を越えて、廊下にも伝わった。思わず通行人が足を止めてしまうほどに。
それほど、"彼女"というワードは、東京派閥にとっての禁忌であり、次に来る言葉が否定の言葉なのも、新人は理解していた。
それでも、彼の正義感が、言わないと言う選択肢を許さなかったのだ。
そして、母国に対する愛国心、正義感は思いの丈の差こそあれど、会議室にいる重役全てが持っていた。だから止める素振りはしていても、新人が話し始めると、先輩はもちろんのこと、他にいる重役は言葉を遮りにはしなかった。
今こそ"彼女"が出る時だと、正義感と愛国心が語りかけていたからだ。
「……面白い」
ただ一人、異能大臣を除いて。