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圧勝

 心臓の鼓動がやばい。どくんどくんと脈を打つ。ここまでの緊張感はキング戦の時ぶりだ。


「そちらの方は……?」


「……誰なの? あなた。今はこっちの話してるんだけど」


 いまだに俺の両腕を抱える偽黒ジャケットと龍ヶ崎は、それぞれ違った反応を見せる。問いかけと威圧、それぞれ両方を同時に行う。1人ではできない行動だ。


(……あれ、なんで俺こんなに……)


 心の中で思う隙もなく、袖女はいつもより、さらに一回り大きな声で言い返した。





「私は! 彼の…………黒ジャケットの女ですが!! ……それが何か?」





「「……は?」」


 あまりの爆弾発言に、俺以外の2人から疑問の言葉が漏れ出る。そりゃ当然だ。自分たちの狙った男から急に女が飛び出てきたのだから。


「……黒ジャケット! 聞いていませんよ!」


 何とか混乱から脱出した龍ヶ崎が、俺を問い詰めようとしたが、自ら爆弾を投下した袖女はもう止まらない。いまだに混乱から抜け出せていない偽黒ジャケットの抱えていた腕を強引に引き剥がし、袖女の胸に抱き寄せる。


「誰にも言っていませんからね! だから……あなたの入り込む隙なんて、どこにもありませんから!!」


 振り向きざまに捨て台詞。普段の袖女なら、出会って、数十秒の女相手にこんなことは決して言わない。顔を見てみると、耳の先から頭の先端まで真っ赤に染まっており、冷静じゃないことがわかる。最近になってよく見る状態だ。


(意外とパニくるんだよな……)


 そのまま俺を引っ張って、ズルズルと行って数十秒、距離で言うと、500メートルほどだろうか、そこでやっと止まり、いまだに赤い顔を見せた。


 その顔は赤いだけでなく、目に涙が溜まっている。はっきり言って眼福だ。顔が良い女にそんな顔をされたら、誰だってたじろいでしまう。


(うお……)


 俺もその例にもれず、あまりの眼福さにたじろいでしまう。


「……ああいうの」


 余韻に浸るのを待たず、袖女はぼそぼそと、恥ずかしそうに話しかけてくる。


「んあ? なんだって?」


「……良くあるんですか。ああいうの」


 ああいうの、と言うのは、女に言い寄られたことだろう。


 もちろんさっきのが初めてだ。ここは正直に言うのが普通だろうが、さっきの顔を見て、魔が差してしまった。


「あ? ああ!! よくあるんだよなぁ。ああいうの。困っちまうよ〜」


「……そうですか」


 思った以上に顔を暗くする袖女に一瞬動揺したものの、一度、こんな嘘をついておいて、実は嘘でしたとかダサすぎる。そんな口が裂けても言えないため、訂正の言葉を言えなかった。


「ま、まあな」


「……なら」


「ん?」


 まだそれを掘り返そうと言うのかこの女は。


「なら……私が彼女になりましょうか?」


「ああそうだな。それがいい……ん?」


 何言ってんだこいつは。


「おい。待て、どこをどうしたらそういう思考になるんだ」


 意味不明だ。どうやったらそういう考え方になる。


「だって、困ってるんでしょう? 私が仮の彼女になれば、そういう奴らも寄り付かなくなります」


「いや、だが……まぁ、うん……だが……良い女が寄ってくるかもしれないだろ? 俺だってそういうのに旺盛な歳なんだ。そのチャンスを逃すってのも……」


 俺も仮の彼女がどうのこうのみたいな漫画を見たことはあるが、せっかくの良い女が寄ってくるチャンスを逃してしまうのに、なぜ主人公はその関係を認めてしまうのだろうと毎回思ってしまうタイプだ。若い時間と言うのは短いんだから、その時間を削ってしまうのはもったいないのではないかと思ってしまう。


 が、その考えに袖女はまさかの返しで反論してきた。


「大丈夫です。私より良い女なんていません」


「ええ……」


(自身ありすぎだろ……)


 確かに、現時点で袖女より良いと思った女はいない。いないが……


「……まぁ、考えとくわ」


 この場では決められず、保留という形になった。

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