揺れ動く世界
その日、その時、その年まで、日本は派閥同士の力による均衡によって、かりそめの平和を守っていた。
お互いの納得の末に手に入れた同盟や、仲の悪い派閥に対抗するために育てた兵士のネームによる威圧。様々だが、お互いに憎み合い、協力し合うことで、かりそめの平和を、真の平和と思い込み暮らしてきた。
つまり、ルールが敷かれていたのだ。同盟を結んだとかではなく、敵対する派閥にも、協力し合う派閥にも与えられた暗黙のルール。
"実害は加えない"と言うルールが。
戦争黄金期の終わりから、昨今まで保たれていた均衡は龍の一息がきっかけとなり、ついに崩れた。
防衛基地の破壊、東京派閥を守る壁の破壊、土地の破壊、兵士の殺害と、そして何より民間人への被害。
あの無敵の東京派閥に、ついに大穴が開いた。これは由々しき事態である。例えるなら、家の鍵がかからなくなったようなもの。正面からいくらでも入りたい放題。
これから先、東京派閥の民間人は、震えて眠らなくてはならないのだ。
そして、それは東京派閥の上層部だけではなく、小さな派閥から巨大な派閥まで、日本全土を覆い尽くした。
例えば、雪の積もった北国。
「我ら、北海道派閥はどうしますか?」
「知らないね。下のやつらがおっぱじめてるだけだろ? 俺らは静観決め込ませてもらうわ」
例えば、兵士ではなく、獣が護る大地。
「ペドネ。始まったぞ」
「ああ……思惑通り、火蓋を切ってくれたね。後は、僕らも便乗するだけだ。派閥同士の大レースに」
例えば、獣住まう皇の地。
「――様。とうとう……」
「有無……これから動くぞ……新潟に続け!! 戦じゃ!!」
例えば、チェスの駒が並ぶ盤上。
「……行くわよ」
「斉藤様! ですが、お身体が……!」
「黙りなさい!! あなたは悔しくないの!? たった1人の人間に……黒ジャケットごときに! コケにされて、そのままだんまりなんて、できるわけないでしょ!!」
そして――――
「……始まりましたか……ふふふ。もうすぐですかねぇ……"彼女"の出番も……」
全てを手に収めんとする者が。
「待っておれ……エリア。必ず……」
加速した物語のギアが、さらに上がる。