強さとは
「がっはっは!! 鎧ムキムキ男とは! どっちが目立ってるのかわからんな! はっはっは!」
俺の宣言を聞いた途端、鎧ムキムキ男は何を思ったのか、一瞬あっけらかんとした表情になった後、風船が破裂したかのように笑い出した。
「ひーっ、ひーっ……だが、良いのかい? そんな宣言をして……この私を知らないわけではないだろう?」
「あー……まぁ、見たことも聞いたこともあるな。四聖、だっけ? テレビで見たよ。テレビで」
そこまで世間に詳しくなかったとは言え、俺ももともとは東京派閥の人間。東京派閥を現在進行形で守っている4人の集団である四聖を知らない理由はなかった。
「そうか! 犯罪者にも知られているとは光栄だ。本当ならファンサービスしたいところだが……これも仕事なのでね。悪い子には……」
瞬間、姿が消える。あれだけの巨体が霞のように消える。周囲の人間の表情が驚愕に染まる。
今まで、復讐から始まった俺の物語は、強者との戦いの時、いつもいつでも、敵の姿が見えないほど速く、瞬間移動が当たり前で、俺はいつもその速度に翻弄されてきた。
(いい加減、そういうのは飽きたな……)
だから、だからこそ、俺は嬉しく感じる。絶頂するほどの快感を得る。
スローモーションかと思うほど、くっきりと見える強者の姿に、成長を感じずにはいられない。
(ああ……俺もついに……強者のレベルにまで来た……!!)
今なら、あの幼なじみも殺せる。次にそう思った時には、鎧ムキムキ男は血飛沫をあげ、宙を浮いていた。
――――
気づいたら、鎧の男は宙に浮き、金属の擦れる音を響かせながら、力なく地面へと落下した。
「……えぇ」
誰が言っただろうか? どこからか、疑問や落胆、驚愕の感情が入り混じった声が聞こえてくる。
(何にも見えなかった……)
鎧の男の動きは、目に見えないほどの速度ではあるものの、ただの高速移動であると言うのは一目でわかったため、ほぼ意味はないが、残像として確認すること自体はできた。
しかし、黒ジャケットの動きはまるで見えない。気がついたら、あの巨体が吹き飛び、宙を舞っていた。
(スキルで弾き飛ばしたの……? いや、それにしては……)
戦闘が終わり、どうやって倒したのかを思案し始めた時だった。
「うばああああああああぁぁ!!!!」
そう大声をあげ、鎧の男は立ち上がった。まだ息の根を止めれていなかったのだ。
口から出た血を手の甲で擦って拭き取り、その手をじっと見つめた後、また元通りの快活な顔に戻り、黒ジャケットに言葉を投げかける。
「これは……はっはっは!! うむ! 先程の無礼を謝罪せねばならないようだな! すまなかった!!」
「いいよ。あんたのおかげでわかったこともある」
鎧の男の快活な謝罪を、黒ジャケットは何の戸惑いもなく許す。
「しかし! だからと言って、悪い子を見逃すわけにはいかない! それとこれとは話は別なのだ! と言うわけで、続け「あ、ちょっとタンマ」……何かね?」
「……うん。もう必要ないな。悪いけど、もうとんずらさせてもらうわ」
「……はぁ? どういうことかね?」
これに関しては、鎧の男に激しく同意する。自分から乱入してきたくせに、こんな早くに退散すると言うのは……
「もう来てるから。でっけぇのが」
ちょうどその時だった。
「お、おい。外……」
「なんだよあれ……」
「他のやつの何倍も……!」
「これ……は……」
私らの頭上。防衛基地の真上に、超巨大な龍が顕現した。