集結
(また濃いのが来たな……)
鎧を纏った姿があまりにも特徴的な大男。その存在感は、普通は隊服で統一してある分、より強調して見えている。
(四聖……とか言ったか? どこかで聞いたことがある気もするが……)
「む……そこの貴様!!」
「……あ?」
鎧の男がビシッとこちらを指差す。
「その特徴的な黒いジャケット……貴様、最近世間を騒がせている黒ジャケットと言うやつか!!」
「……! ……だったら?」
「? どうした? 妙に機嫌が……まぁ、いいか!! とりあえず……」
瞬間、鎧の男の姿がブれ……
「捕まえる!!」
両腕を開けて、抱きしめられそうになった。
「ッ!!」
俺はそれをジャンピングして回避する。本来ならスキルで弾き返せるはずだったのだが、わざわざ回避した理由を述べるとするのなら、はっきり言って"分からない"。なんというか……回避しないとまずい。そのような感覚がしたんだ。
「む! 私のおアツい抱擁を避けるとは……とっても悪い子なんだな!!」
「女でも嫌だわあんたの抱擁なんか……」
「むぅ、あったかいぞ?」
(暖かさどころか、潰れちまいそうだわ……)
抱きしめられたらどうなるか、とか言うくだらない事を考えつつも、俺は思考を冷静にまとめる。
とにかく、鎧の男の攻撃を貰ってはならない。貰ったら最後、どうにもならなくなってしまいそうな、そんな直感を信じているからだ。
加えて、相手のスキルが全くわかっていない今、俺に残された選択肢は1つしかない。
(容赦なく、速攻で決め切る!!)
目にも止まらぬ速度で背後を取る。その時間、何とまさかの1秒未満。そこから体を1回転させ、首元に向かって回し蹴りを仕掛ける。
鎧の上からでは、有効的なダメージを見込めない。なら、唯一肌の色が露出している首から上を狙えば、鎧の上からよりは、良いダメージを期待できると踏んだ上での行動だ。
こちらが既に回し蹴りのモーションに入っているのに対し、鎧の男は未だに動いていない。間違いなく、気づいていなかった。
(これは入る!!)
その確信通り、俺の回し蹴りは、人間の肉を叩く感触とともに、対象物に強い衝撃を与えた。
緑色の全身タイツを纏った女の肉に
「やっと!! 見つけたわよ!!」
「何……!?」
攻撃の間に入ってきた全身タイツの女への驚きに、俺はぐらりと体制を崩し、背中から地面へ落下した。
(なんだあの女は……!? 見えなかった……どこからやってきたのかも……!)
「ああ……! やっと会えた……!! あなたこそが私の……あ?」
なぜなのかはわからないが、全身緑タイツの女は俺と鎧の男の対角線上にスタッと降り立った後、ピタリとその動きを止め、こちらをじっと見つめるだけに留まった。
(チャンスだ!!)
意図はわからないが、相手側が止まってくれたからと言って、こちらが動かない道理は無い。俺はすぐさま体勢を立て直し、本能的に反応できる状態を整える。
(そもそも、俺にはどうこう言っている時間はない! 四聖とか言う強そうなのが到着してるって事は、これから先さらに強者が来る可能性がある!)
ならば……
(短期決戦で行く!!)
スキルの出力を一気に引き上げ、緑タイツの女を処理される缶のようにひしゃげさせてやろうとした。
事実、指の爪は吹っ飛び、まず間違いなく圧力はかかっている。無効化されているといった事は無い。が、だからといって、緑タイツの女が痛みで折れると言った事はなく、ただ単純に、たった一言だけ言葉を放った。
「誰お前?」
バイクのエンジン音のような音が鳴り響いた時、目の前には拳があり……
「それは俺のセリフなんだけどな」
その拳を手で受け止める、黒いジャケットの姿が見えた。