これは戦争ではなく……
できた〜
1時間後、防衛基地に乗り込んでそれぐらい経っただろうか? 東京派閥の国境では、いまだに血みどろの殺し合いが続いており、今のところは犯罪者たち有利で、3つ目の防衛基地に着手しているところだった。
しかし、何もかもが順調、と言うわけではなく……
「っち! なら、火で燃やして……」
ある犯罪者が、手から炎を出そうとすると、東京派閥の兵士の1人が手を銀色に変色させ、ぐにゃぐにゃと変形、2枚の白い板に早変わりし、仲間を火の手から守る。
「くそっ、盾に……! これじゃあ俺のスキルが通用しねぇ! おい! そこのお前! あいつをなんとかしろ! そうすりゃ俺が暴れられる!」
「バカ言うんじゃねぇ! こっちは爆弾投げつけまくってくるやつを何人も相手にしてんだ! それにキツいのはお前だけじゃねぇんだよ! そもそも多勢に無勢なんだ。1人で数十人ぐらい相手にしろやァ!!」
この通り、最初の頃は奇襲で統率が乱れ、すぐにも2個目の基地に移っていたのだが、2個目の基地襲撃の半ばあたりでだんだんと統率が取れ始め、1人を数十人がかりで抑え、さらに最初の基地の司令が、死ぬ間際に残した増援と補給ラインによって、だんだんと拮抗どころか、確保、処分し出し始めた。
そんなところを少し離れた山の麓で見ていた龍ヶ崎ロカは、一見余裕そうな雰囲気を出しているものの、その内心は、焦りと不安が蠢いていた。
(東京派閥側の対策があまりにも速い……内部の中にこの危機を察して迅速に対応したやつがいるのか……)
「あの子達のペースが遅いってわけじゃないわ……いくら優秀な奴がいたとしたって、あっちの対応があまりにも早すぎる」
いくら前線からのレスポンスが早かったとは言え、たかが1時間程度でどうにかなるわけがない。上層部が優秀だったとしても、いくらなんでも無理な話だ。
もしかしたら、壁も壊せないまま終わるかもしれない。そんな最悪の事態を覚悟し、帰りのための龍を呼ぶため、スマホで連絡を入れた。
――――
龍ヶ崎ロカが焦っている間にも、東京派閥は時間と比例してぐんぐんと統率を高め、逆に犯罪者たちは統率がないせいで同数での戦いができず、時間と反比例して数を減らしていった。
犯罪者側の人数は、せいぜい100人程度。それに対して増援があるので実質人数が無限の東京派閥。いちど統率が取れ始めたら、ドミノ形式で次々に倒れていくのが予想できるが、実際には未だに粘っている。それには、とある理由があった。
「おい! なんで攻撃が通らないんだ!?」
「わかりません! 奴のスキルなんだって事はわかるが……ぶん殴っても火やら水やらで特殊な事しても全然……ひゃっ!」
「うおっ!?」
あの男に放ったはずの爆弾やら銃弾やら、その他火や氷、スキルで出したビームすらも跳ね返ってくる。まるで"反射"したかのように。
「くっ……増援を……!」
あの男に対抗するため、人数を増やそうとトランシーバーを使って連絡を入れるが……
「何? 無理だと!? お前、今攻められてるのはこっちの基地なんだぞ! お前は別の基地だろう!? ……は? こっちにも1人来てる? ふざけてるのか!! あのな、たかが1人程度で――――」
『その1人がありえないぐらい強いんだよ!! 何だよあの女!! 全身タイツで変な格好してんのに、見えないぐらい速く動きやがって、パンチ1発で壁ぐらい余裕で壊してくるし…………ひっ、ちょ、やめ――――』
「っ! おい! 一体何が……何が……何が起きてるんだよ……」
その理由が、犯罪者の中にいる玉石混合の玉の方……
言うなれば、"突出した個人"の存在であった。