未来を見据えて
夜空に消えていく龍たちを見送りつつ、犯罪者が大暴れしている防衛基地側に向き直る。
(……防衛基地を、むちゃくちゃにはしている……している……が……)
侵入には成功し、基地の一つを破壊し、次の基地に向かってはいるものの、まだ壁の破壊には達していない。やはり、黒ジャケットがいない影響は普通に大きい。
「それに何より、相手側の加勢も問題ね……」
捨て駒ではあるものの、せっかく金を使って雇ったのだから、少し位は成果を持って帰ってきて欲しい。
(だからと言って、私が手を下す訳ではないのだけど)
ここで変に私が"変身"して、東京派閥に姿を見られるのも癪だし、そもそも私はこんなところで戦いたくはない。
「だから……」
締めは、戦いたい奴に任せる。
片手に握られたスマホには、『龍ヶ崎震巻』と書かれていた。
――――
「ふむ……始まりましたか」
東京本部。会議室にて、私は部下からの報告を受けた後、ライターでタバコに火をつけ、風味を味わっていた。
部下からの報告によると、新潟派閥による東京派閥への進行が、本格的にではないものの始まったらしい。どうやら私の思った通り、外部からの協力を仰いだようだ。
(しかし……彼はいない)
外部からの協力を仰いだのにもかかわらず、何故か彼の姿がない。単純に目に止まらなかった可能性も考えたが、現時点で、彼の存在は派閥と言う縛りを持つ兵士を除くと、間違いなく最強に位置するはずだ。もともと傘下であった故、新潟派閥には優秀な人員がいることも知っている。黒ジャケットの存在に目をつけないはずがない。
では、一体どういうことが起きているのか。考えられる可能性は2つ。
1つは、新潟派閥が私の思っている以上に黒ジャケットを巨大な戦力として見積もっており、最初の尖兵として使わず、切り札として握っている可能性だ。
これは普通にあり得る。彼ほどの存在なら、手札に握っておいても十全な効果が期待できるからだ。
2つ目は彼、黒ジャケット自身が新潟派閥の誘いを断った可能性だ。
これは論理としてはあり得るが、黒ジャケット側に断るメリットが感じられない。せっかく東京派閥を攻められるチャンスを逃すとは思えないし、戦争なんて、一生に1度あるかないかだ。逃がさない理由はないだろう。
(ただ、あの新潟の頑固親父がぽっと出の男を信じて新潟本土に置かせるかと言われると……)
つまり、この2つのどちらでもない。もう1つの選択肢。
(新潟派閥は黒ジャケットである彼に依頼をして、承諾したが、何故か来なかった)
この可能性が1番高い。新潟派閥が彼に依頼を出さないのは不自然だし、彼が新潟派閥の依頼を承諾しないのも不自然だからだ。
「と、なると……心配しなくても、彼はこの先必ず現れる……なら、彼女には連絡を入れておくべきですね」
私はスマホを画面を操作し、数多にある連絡先の中から、1つを選び、通話ボタンを押した。
その画面には、『桃鈴才華』とだけ書かれていた。