何も考えない
来ます。と部下が報告したその数秒後、私の体に不思議なことが起こった。
なんだか、時間がとてつもなくゆっくり、ゆっくりと流れ始めたのだ。私に指示を仰ぐ部下たちの声も、壁一面に設置された巨大スクリーンの画面も、何もかもがゆっくり流れている。
一体なんだ? 何が起こっている? ゆっくりと流れる時間とは対照的に、私の頭は超高速で回転を始めていた。
そして、1つ。私の中に浮かんだ最終的な理論。それは、襲撃してきた新潟派閥の兵士によるスキルの影響だ。
それなら、この不自然な時間の流れにも納得ができる。今のうちに東京派閥内に侵入するなど容易いし、動機もあるからだ。
(これはいかん! 私には、東京派閥を守る義務が……)
するとゆっくり、ゆっくりと瞳が閉じられていく。
唐突な瞼の疲労感に、一瞬、動揺したが、口から滴る血と、体から湯水のように湧き出る脱力感に、なぜ時間がゆっくりなのかの疑問が全て解けた。
(ああ……なんだ……)
スキルによる影響でもない。この間に誰かが侵入しているわけでもない。それが確信できるただ一つの答えを知ってしまった。
(ただ……死んでいくだけだったんだ)
死にゆく前の、時間がゆっくりになるように感じるだけのあの感覚。漫画でよくあるあの表現が、実際に起きただけなのだと。
――――
「ヒィィヤッッッハハハァァァァ!!!!」
「死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇェェェェ!!!!」
「あああああーっ〜〜ギん持ちい゛い゛ぃぃ〜!!!!」
「お血血ペロペロ!! お血血ペロペロおぉぉー!!」
「キっっシシッッショ……」
「行ってこい!!」みたいな感じで、送り出したは良いものの、そこにあったのは手っ取り早い1番近くの防衛基地に突っ込み、側面の壁を破壊し、中から白アリのように進行することだった。
いわゆる、ただの突撃である。
(なんか……いろいろ考えてた私が馬鹿みたい)
そう思いながら、自分を乗せていた龍兵にお礼を言い、新潟派閥に返した。