急転直下
埼玉派閥の空を、我が物顔で飛翔する龍の軍勢。それは埼玉派閥に住む住民はもちろんのこと、埼玉派閥に設置された探知レーダーによって、東京派閥側も確認していた。
場所は防衛基地の一つ。そこでは世話しなく人が動き回り、モニターとにらめっこしながら、司令らしき人物が激を飛ばしていた。
「本部にこれを今すぐ伝えろ!! 補給ラインを作れ! 前線を維持する準備を!」
「医療班はすぐにでも防衛基地に迎え! ……っく! まさか、こんなに早く……」
新潟派閥が何か企んでいると言うのは、聞いてはいた。ただ、聞いていただけだ。
人間と言う存在が、組織を組むにおいての弱点。上と下の警戒度の違いが出たと言えるだろう。
(こんな前触れもなく、埼玉の空に龍が……! まさか、本当に新潟派閥が謀反を起こすとは……!)
新潟派閥の『龍兵隊』は日本全土で見ても、特に有名な軍団の1つであり、新潟派閥の象徴と言える存在だ。それが見えて、かつこちらに何の報告もなく、明らかにこちらに向かって来ている。その時点で規約違反は確定。『龍兵隊』の存在は、我らに対しての敵意を意味していた。
「こちらの戦力は……いつもより少ない、か」
真夜中に加えて、前触れのない襲来。その2つによって、防衛基地にいる兵士はいつもよりさらに減少し、お世辞にも折り返せるような戦力ではなかった。
(ともかく、上には補給ラインと増援の要請を送った……何が何でも"耐える"ことを考えねば……)
レーダーで数も確認したところ、新潟派閥の戦力にしては少ないことがわかった。つまりは尖兵なのだ。
(耐えられる! 戦力的にはそれでも差があるが……それでも、こちらには地の利がある。これを使えば……)
確かに作戦を考えれば、犠牲を最小にしつつ耐えることができるだろう。
「司令!! 肉眼でも確認できました! 来ます!」
が、それは敵が爆速で到着していない場合の話だ。
敵はあまりにも速すぎた。
――――
埼玉の空を駆けてから十数分。私たちはついに、肉眼で壁が確認できるほどまで近づくことに成功した。犯罪者たちは初めて見る壁に興奮気味のようだ。
「おい! このままの勢いで行っちゃってもいいんじゃないか!?」
犯罪者側の中から、少し上ずった声色で、私に意見する声が聞こえる。
「だめです。いくら高速で動いたとは言え、埼玉派閥あたりのタイミングでレーダーによって間違いなく探知されています。このままの勢いで突っ込むのはリスクが高い」
「ちぇ……」
私の厳しい意見を受けて、少しふてくされる様子を見せる犯罪者たち。
だが、私は知っている。
「ですが……そうですね……せっかくの戦争なんですし……」
こういう奴らは、少し炊きつけてやる位が、1番本領を発揮できると言うことを。
「開幕の狼煙位、パーっとやっちゃいますか!」