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気怠げな龍

 今回の戦争、その中心人物になるであろう『越後の龍』こと龍ヶ崎震巻。伝説の男の返事は、意外にも腑抜けたものだった。


「適当って……困るぜ親父。俺たちはゲームをしているわけじゃないんだぞ? ついにボケが始まったか?」


「舐めるんじゃないわい。孫の名前までしっかり覚えとるわ」


「だったら……」


 なぜ作戦立案を投げるのか。そう言おうとした瞬間、震巻は男のセリフを待たず、すぐさま言葉を返した。


「じゃからこそ亮介(りょうすけ)に任せると言っとる。ワシは神奈川のキングほど頭が良いわけでも、喋り方に特徴があるわけでもない普通のジジイじゃからな。ただ、ちょっと他のジジイより腕っぷしが強いだけじゃ」


「親父……」


「任せるぞ。亮介」


「……ッ!!」


 亮介は理解していた。こんな上半身裸の変質者だが、実際は新潟派閥を代表する伝説の兵士だ。


 昔から、だらしないところや年寄りらしいところを見てきた亮介からすれば、すごい男だったんだぞと言われてもピンとこない。と言うのが、子供の頃の亮介の本音だった。


 しかし今なら、亮介自身も大人となった今なら、中堅派閥で、兵士として勤務し、成果を上げ、周りから尊敬されることの大変さを理解している。


 それを成し遂げ、今や歴史の教科書に載るような男が、自分に作戦指揮を任せてくれる。これ以上の光栄あるだろうか。


「……っち、しゃーねーな。出来の悪い親父を持つと辛いぜ」


 あくまで『しょうがないからやってやる』と言うスタンスを取りつつも、任せてもらえたことによる興奮が隠しきれていない亮介の心境を読み取ったのか、震巻はニコリと笑い、席を立った。


「っと、そんなわけじゃ。後は皆の者に任せるわ。ワシは寝る……」









 ――――









 ワシはふすまを開ける速度をいつもよりも少し早め、足早に紅龍の間から出た。早めた理由はもちろん、あの場に少しでもいる時間を縮めるためだ。


「ふぅ……得意じゃないんじゃよなぁ、ああゆうのは」


 歳をとってから、作戦やら戦術やら戦略やら……小難しいものはどうも受け付けなくなった。脳の劣化もあるだろうが、元来、そういうのを考える脳みそではなかったのが大きいだろう。


(ま、昔のことなどあんま覚えとらんけど……)


 そう思いつつ、外とは塀で仕切られた人気のない庭を眺める。庭は毎日、専門の庭師が手入れしてくれており、大きな松の木や枯山水のような砂場など、誰が見ても、美しいと思える出来栄えとなっていた。


(全くもってつまらん……おっぱいのでかい姉ちゃんぐらい置いとかんか……最近、庭師は全く……)


「おじいさま」


「ん……? おお、ロカか」


 足音1つ立てず、いつの間にか隣にいた人物の名は龍ヶ崎ロカ。ワシの孫娘で、赤い髪が特徴的な女だ。


 赤い髪がふわりと浮く姿はまるで彼岸花。肉付きもとても良く、性格の面で見ても、少なくとも人を馬鹿にするような性格ではない。俗に言う上玉の女と言える。


「…………」


 さすがに、わしでも、さすがに孫娘に欲情する事はないが――――


(ワシの見立てではE……いや、Fはあると見……いや! 見ない間にさらに成長しているか!? グヘッ、グヘヘ……)


 たまらん。とだけ言っておこう。


「ふふ……いやですわおじいさま。おじいさまには、おばあさまがいるじゃありませんか」


「む……何のことじゃ?」


「お戯れを……とだけ言っておきます」


 それを最後に、互いにクスリと笑みを浮かべると、弾けるような笑顔から一転、ロカの顔は一気に引き締まり、真面目なトーンで言葉を発した。


「……此度の戦争。勝てるとお思いですか?」


 ()()()()()()()へと変わった瞬間である。


 そして、それは――――


「勝てんじゃろうな。絶対に」


 ()()()()()()()()を、ワシが口にする事となる、最初の出来事となった。


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