異能大臣の手のひら
「協力するって……具体的にどういう?」
異能大臣の宣言に、五大老の1人、色黒の青年が問いかける。
「もし戦争になった時のご出陣はもちろんのことですが……皆様方が保有するプライベートな戦力もご提供いただきたいのです」
「……まさか、息子を出せってか?」
「そうとは言っておりません。新潟だけが攻め込んでくるのならば、神奈川派閥以外の支配下の派閥の戦力を借りて……いや、東京派閥の戦力だけでも、十分に対応可能でしょう。ですが……」
「新潟派閥が自分たちの力だけで来るとは限らない……言いたいのはそういうことよね?」
「ええ。おっしゃる通りです」
大派閥である東京派閥と新潟派閥では、戦力に大きな差がある。しかもそれだけではなく、東京派閥には支配下に置いた派閥の戦力も借りられるため、新潟派閥は、逆立ちしても東京派閥に勝てはしない。
ただ、それを新潟派閥側も重々承知のはずだ。同盟国である神奈川派閥が動けなくなった今は確かにチャンスだが、そもそもの地力が違いすぎる。つまり、新潟派閥側も、何かしらから手を借り、戦力を補充している可能性がある。
それも、東京派閥を打倒することができるほどの戦力をだ。
「なので、ご理解のほどよろしくお願いします」
異能大臣はぺこりと頭を下げる。今の話を聞くと、さすがの五大老もある程度準備する必要があると理解したらしく、めんどくさそうにしながらも、了承の返事をし、この場は解散となった。
――――
一時間後。東京派閥本部屋上。
「…………さて」
私は胸ポケットからタバコを取り出すと、タバコを持っていない方の手でパチンと音を鳴らし、その摩擦で火を着火する。
「スゥー……ふぅ……」
吸い込んで。吐く。タバコを味わうに置いて当たり前の動作を取り、口から吐き出された副流煙が夜風に舞う。朝一で吸う目覚めの1本も、優越感が感じられていいが、夜空に光る満天の星空をバックに吸うタバコ。と言うのも中々乙なものだ。
(予定通り、五大老は動かせた……後は他の人間の認識をずらせば……)
五大老にだけ準備をさせ、軍の準備を遅らせる。いくら新潟派閥がこちらの戦力が弱くなったところを狙って準備を進めているとは言え、それでも相当な差があるはず。いい勝負にさせるには、このくらいのハンデでは必要だろう。
(向こう側の戦力……ある程度は予測できるが……)
越後の龍以外に、外部から協力を求めるとしたら、うちと敵対関係にある大阪派閥は鉄板。なりふり構わず協力要請を求めているのならば、北海道や九州方面の派閥にも手を伸ばしている可能性がある。
(そして、間違いなく彼にも協力要請が来ているはずだ)
おそらく、ではない。間違いなく、確定で彼にも応援要請が出ているはずだ。
出ていないと困る。そのために、わざわざこんなハンデを付けたのだから。
(私は見たいだけなんだ……彼の中にある闇を……)
どちらにしろ、今回の戦争で、彼の名前だけではなく、強さが、リアルタイムで全世界に知りわたる。そうなれば、世界情勢は大きく変わる。
「彼の中にある闇が、世界を覆う光になるのかどうかは……」
引き金は渡した。後は彼次第。
「魅せつけてくれ……君の力を……」