世界情勢 五人と異能大臣にて……
黒ジャケットが神奈川派閥に潜入していたとわかり、チェス隊および、神奈川派閥そのものに派閥崩壊クラスの大打撃を与えたと、日本中に報道されて1週間と少しが経った。
1週間と少ししか経っていないとは言え、神奈川派閥と言う日本有数の大派閥が、たった1人の青年にいいようにされたと言う事実は、日本中、そして、何よりも神奈川派閥自身に凄まじい衝撃を与えた。
神奈川派閥の名は地に落ち、それと反比例するように、黒ジャケットの名と株は全国に広まった。
ある者は黒ジャケットにさらなる情景が芽生え。
ある者は黒ジャケットにとにかく夢中になり。
ある者は黒ジャケットの正体を考え、心の曇がより濃くなり。
そして、ある者は……
「皆さん。今回はお集まりいただき、誠にありがとうございます」
東京派閥本部。その会議室にて、異能大臣を含めた計6人でテーブルを囲み、会議を行っていた。
会議室で会議を行うと言うのは、当然っちゃ当然のことだが、今回はそのメンツが当然ではなかった。
「本来なら、進行役は首相様のお役目なのですが……首相様は今、精神を病んでおられて――――」
「あーそう言うのはよいよい」
首相がいないことに関して、理由を述べようとしていた異能大臣に対して、5人の内の1人が声をかけた。
「しかし……」
「良いから良いから。早くしてくれんか。もうすぐ日課の爪切りの時間なんじゃから」
そう話すのは、鼻の下の髭だけを腰に届く長さほどに蓄えた老人。不機嫌そうな表情を見るに、この会議の時間がよっぽど嫌らしい。
「そう意地悪言うなよジジイ。こいつだって頑張ってんだぜ?」
老人に反論するのは、シャツを下に着ないまま白いジャケットを羽織ると言うあまりにもファンキーで、場違いな服装をした色黒の青年。歳の差はかなりありそうだが、老人と対等に話せる位の地位はあるらしい。
「自分だって外見だけで中身はジジイのくせに……」
「あぁ? てめェもだろうが!」
「僕は生まれ変わってるから大丈夫だもんね〜。中身までジジイじゃないもんね〜」
色黒の青年に指を刺され、それに対して、そっぽを向いているのは青い髪のおカッパ頭の少年。顔立ちは整っており、色黒の成人よりも、年齢は低そうに見える。
「いいわね……そんなふうに喧嘩できて」
「ほんとよ……こっちはお化粧と整形で喧嘩する活力もないってのにねぇ」
2人の喧嘩を見守るのは、これまた歳をとった女性2人。こちらは喧嘩している2人のように子供っぽい感じはなく、お世辞にも若々しいとは言えないビジュアルとなっている。この中ではだが、1番ビジュアルに特徴性がない2人と言えよう。
「あの〜いいですか?」
「ん、いいよいいよ。あいつらは、ずっとあんな感じだし、あー見えて結構話は聞けてるからさ」
終わらなそうな喧嘩に困った声を出す異能大臣に、歳を取った女性2人のうちの1人が反応し、大丈夫だと声をかける。長年の付き合いである5人だ。そのうちの1人の発言は信憑性があったのだろう。女性の声を聞いた異能大臣は、2人の喧嘩を止めることなく、一気に自分が喋りやすいターンへと持って行った。
「先日、同盟相手である神奈川派閥が黒ジャケットによって致命的な損害を受けました」
「ああ? ああー……黒ジャケットってあれか。最近、話題の尽きないやつか」
「抽象的すぎでしょ」
「わかるからいいだろうが」
「……ごほん。本題はここからになるのですが……」
異能大臣は1つ咳を入れ、自分が発言しやすい体制を整えてから、本題を切り出した。
「新潟派閥にて、謀反と思わしき怪しい動きがあります」
瞬間、ほんの少しだが、会議室の空気が変わった。
一気に真剣な雰囲気になった。と言えるほどの空気の変化ではない。だが、確実に5人の心が異能大臣に向いた。確信して言えるくらいには変わった。
「……あの越後の龍が、何かしようってのか?」
「物的な証拠が取れたと言うわけではありません。ですが、新潟派閥は今まで、怪しい動きを度々見せていました。怪しむには充分な理由です」
「タイミングもタイミングね……何か手立ては打って……いや、だから私たちを呼んだってわけね」
「そうです。今は神奈川派閥も当てに出来ない……そこで、あなた方に力をお貸し願いたいのです」
「東京派閥の力の象徴……『五大老』の皆様方に」




