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落空隕

 同時刻、神奈川派閥本部。


「ふぅ……これで全員かな?」


 神奈川派閥本部。地下牢獄から脱獄した犯罪者たちによる反乱によって起こった戦争の後始末、ならびに白のクイーンによる城の牢獄によって捕まった彼女たちの拘束が現在、ようやっと終わろうとしていた。


「はい! これで全員のはずです!」


「でも、やっぱり人数が足りないみたい……後始末、大変になりそう」


 黒のビショップ、旋木天子の溢した言葉に、黒のポーン、青葉里美と、黒のナイトである如月紫音が反応する。一見するといつも通りの3人組だが、それでも拭い切れない疲れ、そしてそこはかとない雰囲気の悪さがあった。


 疲れの理由には、今回の戦争による単純な体力の消耗もあるだろう。しかしこの3人には、それ以外にも具合を悪くさせる理由があった。


「……大丈夫かな。ひより」


「っ! 大丈夫ですよ! 何かの間違いですって!」


「…………」


 ぼそりと溢した言葉をすくいあげ、何とかフォローの言葉を入れる青葉里美。悟っているかのように何も返さない如月紫音。チェス隊に所属している時間の長さゆえか、2人の対応はとても対象的なものであった。


 いつもならなんのわだかまりもなく、大らかな雰囲気で会話できている3人なのに……


 その理由、それは全体報告によって裏切りが明らかとなった元、黒のポーン。浅間ひよりのことだ。


 何も聞かされていない3人にとっては、あまりにも唐突な報告。プロモーション戦からそのまま戦争に参加した3人にとっては、先ほどまで大躍進を見せ、誇らしい仲間となってすぐのこと。気が動転し、雰囲気が悪くなるのも致し方がないことであった。


 このまま神奈川派閥に捕まってしまえば、黒ジャケットもとい、田中伸太ともども地下牢獄行き、なんなら終身刑もなくはない。


(ひより……)


 旋木天子は思う。黒ジャケットははっきり言ってどうでもいい。問題なのはひよりだ。あの真面目で神奈川派閥のことを第一に考えていたひよりが裏切るはずがない。それに、よりにもよって共犯者はあの黒ジャケットなのだ。


 黒ジャケットと言えば、これまでに数多の大事件を引き起こし、最近では一大お祭りである東一文化祭の襲撃事件が印象的だが、私にとってはそれらより、黒ジャケットとひよりが過去に戦ったことがあるのが、ひよりの裏切りをよりいっそうありえないと思わせる要因となっていた。


(何かの間違いだよね……? きっと、私らの手が届かないうちに、黒ジャケットに何かしらされて……)


 縋るかのように、神に願うかのように、アゴを上に持ち上げ、閉じていたまぶたを日の出に向かってゆっくりと開けた時……





「……うぇ?」





 暗き漆黒の隕石が、宵闇を照らそうとする太陽を押しつぶしていた。










――――








『隕石』


 それは通常、自然に発生する災害の1つで、惑星間空間に存在する物質が何らかの要因で地球の表面に不時着すると言われているもの。


 自然界の中ではトップクラスの被害をもたらす災害の一つ。と言う側面を持ちながら、自然界でトップクラスの発生の少なさを誇っている側面も持つ自然災害だ。


 その余りの発生の少なさからか、大昔では1度、預言者の預言によって、世界が終わると言われていたらしい。今となっては神話や伝説の類になっているが。


 とにかく、『隕石』と言うのは神話や伝説になるほど甚大な被害をもたらすものであり、人類ではどうしようもない絶対の法則を持つ現象なのだ。





 しかし、目の前にある()()は――――





「な……」


 『隕石』くらい大きく、『隕石』よりも近くにあった。



『落空隕』



 それは、元となった物質や設計が隕石とはまるで違う。『隕石』とは似て非なるもの。黒のクイーンの最高出力であり、戦争黄金期において、神奈川派閥が他派閥に大打撃を与えるために幾度となく使われた生きる隕石。それが最大火力。必殺奥義『落空隕』だ。


「っ……!!」


 落空隕が、隕石が目の前にある。と言う、普通に生きていれば、まず間違いなく出会う事はないだろうシチュエーション。その迫力に気押され、私はスタジアムの観客席から立ち上がり、ブラックの首根っこを掴んだ。


(できるだけ外へ……!)


 空は先ほどと変わらず暗闇。本来ならば時が経ち、陽が登ってきてもおかしくはない時間帯なのだが、いまだに暗闇が続く理由は雲が陽を隠すからではない。頭上に広がる隕石のせいだ。


 それほどに大きい隕石だ。攻撃範囲は想像もできないほどだろう。今から逃げても回避できるか微妙なところだ。しかしそれでも、逃げないよりはマシだろう。そう考え、彼の方に目を向けた時。



「袖女……そこから動くな」



 彼は――笑っていた。



 まるでこの状況を、待ち望んでいたかのように。

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