マーキング その2
私の出せる最大火力。それは当然ながら、私1人で成り立つものではない。もっともっと全体に、縦にも横にも広範囲にスキル範囲を伸ばし、やっと一撃で地表ごと奴を木っ端微塵にする一撃を叩き込める。
しかし、それには、またも当然ながら時間を必要とする。そしてそれを見逃す道理は田中伸太にはない。この戦いに時間制限がなく、ゆっくりと楽しめる。それこそ戦争の場なら、楽しむために待ってくれたかもしれないが、ここは残念ながら戦争の場ではない。見てくれこそ戦争跡地に見えるが、それは私が作り上げた偽物のフィールドだ。田中伸太からすれば、私の増援が来てもおかしくない状況。決着は早めに着けたいだろう。
つまり、田中伸太は私が次に静止した時、確実に命を狙ってくる。しかし、やつを消し飛ばすほどの一撃を与えるには、静止する必要がある。
あまりにも相容れない2つの矛盾。普通の人間ならどうしようもないことだが、私のスキルなら、いや私なら、この矛盾を解決できる。戦いと言う休みのない事象の場に、安全と言う矛盾を生み出すプロセスをこの手の中に入れている。
(私の『土石』シリーズの最大火力……それをぶつける!!)
私は両手を合わせ、『印』を結ぶと、瞳を閉じ、自分とその周り、自分のスキルの効果範囲をイメージする。
ちなみにこの『印』は歴史を学んだ時に習ったもので、こうやって『印』のようなものを結び、集中力を高めてプレイしていたスポーツ選手をリスペクトしたものだ。実際、この『印』の効果はてきめんで、自分のスキルの概念を破壊し、さらなる強さを得ることができた。このルーティーンを教えてくれた過去のスポーツ選手に感謝したい。
過去のスポーツ選手の話はここら辺にして、話を戻そう。スキルの効果範囲を強くイメージすると、私はそのイメージを膨らませる。より薄く、より広く、中学生がテスト範囲を覚えるように、薄く広くをイメージするのだ。
するとどうだろう。イメージの中だけの話ではあるが、本来20メートルほどしかないはずのスキル効果範囲がみるみる広がっていくではないか。そして私のイメージに答えるかのように、効果範囲以上の距離にある瓦礫や砂利、木などがゆっくりと浮かんでいく。
通常の私なら高速で持ち上げ、爆速で飛ばせる軽いものがとてつもなくゆっくりと空中に浮遊していく。まるで渋滞に巻き込まれた自動車のごときスピードだ。
これは薄く広くイメージしたことによる出力の低下が予想される。だが、今の私に必要なのは質ではなく量だ。石でも木でも、もっと言うならプラスチックや段ボールでもいい。とにかく普通から外れたアンリアルな量の物質が必要なのだ。
このままいけば、そのアンリアルの量の物質は間違いなく、私の理想の量まで届くだろう。
「させねぇよ」
しかし、そんなことを田中伸太が見逃すわけもなく、急速に接近してきた。ただそれは最初に他の誰でもない私が予想した事象。それを想定したつもりであえて田中伸太の前で目を閉じると言う自殺行為に手を出しているのだ。
受け止めるのはもはや不可能。だが、田中伸太の体は何の前触れもなく横に倒れ、地面に横から、さらにわざとらしく地面に突っ伏した。
「なっ……に!?」
自分から倒れたような動きを見せたにもかかわらず、驚きの声を上げる田中伸太。それは当然のことだ。もちろんだが、倒れたのは田中伸太の意思ではない。
(私のスキルでプラス極を地べたに、マイナス極を田中伸太にくっつけた……突貫工事ではあったけど、うまくいったみたいね)
私の能力は抵抗のしようがない自然の能力。今までは私を起点に引っ張ったり、離したりしていたが、結局はスキルを発動した後の攻撃で上を行かれたり、そもそもスキルを発動する暇も与えず攻撃されたりだったが、今までの田中伸太はあくまで私のスキルを何かしらでかいくぐって来ていただけ。私のスキルを突破してはいない。
そこにギリギリで気づけた私は、とっさに田中伸太にマイナス極エネルギーを与え、地べたにはほんの少し、気づかないほど微量にだけプラス極エネルギーを与えた。そして田中伸太の姿が消えた瞬間、地べたのプラス極エネルギーを一気に引き上げ、くっつく反応を引き起こしたのだ。
消えたのを認識した瞬間にプラス極エネルギーとマイナス極エネルギーをそれぞれどこかに与え、反応を引き起こすのはさすがに不可能だが、既に設置してあるエネルギーを引き上げるだけなら可能だ。私は田中伸太が消えたと言う認識はできているのだから。
「ぐ……うおお……!!」
田中伸太は未だに立ち上がれない。このチャンスを生かさずしていつ勝ちの目を拾うと言うのかと言うほどのチャンスだ。
「はああぁぁ……!!」
息を大きく吐きながら意識をイメージした空間に集中させる。スキルの濃度を薄め、スキルの範囲を広げていく。
地道に、地道に、少しずつ。
だが、そうなると田中伸太に対する意識が薄れること請け合いだ。
(なら、物理的に埋めてしまえば良い)
自分の周りの地面、瓦礫を捲りあげ、私を覆う膜となっていく。それは薄い膜にとどまることなく、薄く広く広げた範囲内の物体全てを使い、浮かせ、何十にも何十にも重ね着されていく。瓦礫や地面だけでなく、人の生活が垣間見える家具や日用品、はては髪の毛や切った爪、垢までもが私を包む卵となり、大きさを増す。
その卵は周りから物体を集め、肥大化し、膨らんでいく。
最初は卵と表現できるほど小さいサイズだったはずの膜が……
石となり……
岩となり……
象となり……
家となり……
ビルとなり……
山となり……
やがて卵は……
隕石となる。
「引仕掛け……『落空隕』」
それは地を穿つ。隕石となりて。