マーキング その1
黒のクイーンの倒し方が決まった今、これ以上時間をかける必要もない。とっとと叩き潰すことにしよう。
現在、黒のクイーンはボロボロだ。対して、俺の体はすっぴん。誰から見ても傷一つない体だ。コンディションの差は歴然。このアドバンテージを活かさない手はない。
(黒のクイーンからは仕掛けてこない……なら!!)
反射に闘力操作を足に発動。血が後頭部に溜まっていく感覚を感じながら、驚異的なスピードで接近する。対して、黒のクイーンはその場にぼっ立ちになったまま、右手の人差し指と中指を上に向けているだけ。
ここまでは想定通りだ。何故かと言うと、黒のクイーンは俺の速度に絶対に対策できていない。対策できているのなら、先程のタイミングでとっとと切っているはずだからだ。
(指を上に上げているのが気になるが……この際、そんなことどうでもいいわ!!)
お構いなしに殴りかかろうとした瞬間、後ろへぐっと、まるで髪の毛が引っ張られたかのような感覚とともに、目にも止まらないスピードで進んでいたはずの体は、一気にスローモーションになった。
(これは――――)
これはチャンスとばかりに黒のクイーンは俺に接近、右腰を大きく振りかぶり、顔面に向かって振り落とした。
「ぐおっ!?」
(こいつ……思った以上に腕力がありやがる!)
十中八九スキルによる評価もあるだろうが、それでもなかなかの一撃だ。おかげで頭が体の後ろへと吹っ飛んだ。
……が、そんな事はどうでもいい。
(触れることができた……それだけで充分プラスだ)
――――
(よし……なんとか弾けた……)
ずっと、ずっと考えていた。どうやったら田中伸太の一撃を回避できるのだろうと。そうやって生まれた苦肉の策。それは、向かってくる田中伸太をそのまま引力で押し返す陳腐なものだった。
(陳腐だったけど……初見って言うこともあって、何とか反撃の一手を打てたわね……)
陳腐だが、初見。初見ほど強力な武器もない。おそらくは、まだ私のスキルを見破っていない彼からすれば、強力な対策になっていただろう。
(だけど、もう次はないでしょうね)
が、初見殺しと言うのは、初見だからこそ効果を発揮するのだ。こんなもの対策するのは容易。だからこそ次はない。だからこそなんとかなのだ。
もはや絡め手的な戦法は通用しない。遠距離戦は目にも止まらぬスピードで接近され、殴られたい放題やりたい放題だ。
(つまり、私には遠距離戦も近距離戦も、はたまたスキルを利用した絡め手も許されない状況……)
なら、やる事は1つに決まっている。
(スキルの出力で……一気に押し潰す!!)
田中伸太の予想以上の力に対抗するには、もはやこれしかなかった。