肉体 その4
投稿が止まらん。
最初は3人称視点、途中から田中伸太視点です。
田中伸太と黒のクイーンの能力の類似。それはお互いに気づいている部分だった。
(黒のクイーンと俺の能力はおそらくだが、近しいものだと推測できる……なら……)
(彼も私と同じようなことができるようね……ただ、完全に同一と言うわけではない。なら……)
ほぼ同じスキル同士の対決において、優位を得るための方法はたった一つしかない。
((自分にしかできないことを押し付ける!!))
黒のクイーンが言った通り、黒のクイーンと田中伸太のスキルには、類似点が多いものの、完全に同一と言うわけではない。黒のクイーンにしかできないこと、田中伸太にしかできないことがある。問題なのは捜索スピードだ。自分にしかできないことを探すには明確に時間を要する。相手のことをよく知らないのならなおさらだ。
そして、それは前もって、圧倒的余裕を保っていた……
(……なら、単純だな)
黒いジャケットを纏ったこの男に軍配が上がった。
――――
お互いに近い能力を持ったスキルを持つ者同士なら、こちらに分がある。そう感じた理由として、黒のクイーンにはなくて、こちら側にあるものが、最初から明確に存在していたからだ。
もともとわかっていたことなら、捜索スピードもクソもない。無条件でこちら側に有利がやってくる。そう考え、俺がとった行動は――
最初も見せた神速の一撃。すれ違いざまの必殺パンチ。
「……っ!!」
これを最初同様、もろに受ける黒のクイーン。
ここまでは予想通り。回避しようがないことはわかっていた。だからこそ、黒のクイーンは地面から空中へ移動したのだから。
そう。あの瞬間、俺は情報として、最初の一撃ほどの速度で攻撃され続けたら対処のしようがないと言うことを手にしていたのだ。
(黒のクイーンからくれたようなもんだけどな)
しかし、少しの違和感が1つ。
「……んん?」
最初の一撃と比べて、顔を殴った拳の感覚が固い。つまり、黒のクイーンは殴られる位置がわかっていて、耐えるために力を込めたと言うことになる。
(……ってことは……)
半ば確信めいた予想を立てつつ、黒のクイーンのいる後ろを振り向くと、そこには確信めいた予想通り、地面にひれ伏すことなく、口から血を流して立つ黒のクイーンがいた。
(やはりか!)
攻撃している俺は視認できなくても、俺が攻撃しようとする予備動作は視認することができる。それを生かして攻撃タイミングを読み切り、耐える動きをしたのだろう。
(けどな!!)
「そんな程度で止められるかよォ!!」
女の体で少し堪えたからと言って、攻撃を止める俺ではない。すかさず俺は体を反転させ、黒のクイーンの真近くへ移動。黒のクイーンが咄嗟に顔を腕で隠したのを確認すると、俺はすかさず腹、脇腹、股関節へ閃光のような拳を3発叩き込んだ。
「う、ぐぶ……」
普段の冷静沈着な黒のクイーンらしからぬ下品な声をあげて腰を折り曲げ、顔をこちらに寄せたところで……
「死ね!!」
全力のアッパーカットを決め切った。
その瞬間、空気が凍る。世界が一瞬止まったのではないかと思うほどの静寂が訪れる。
結果、黒のクイーンを殴り飛ばした音が響いたのは、俺の拳圧でドームが半壊した後。比喩でも何でもなく、俺は本当に音を置き去りにしたのだ。
「ふふん……」
今までの俺ならば全力の全力。最大火力でないと出せない破壊力。それを今の俺は半分程度の力で出せるようになっていた。
短期間でここまでのパワーアップを果たしたのは、黒のキングとの殺試合による闘力の増量、そして――――
「……この肉体にあるんだよ」
ジャケットとシャツを脱ぎ捨て、今までの俺とは全く違うと言えるほど、筋骨隆々となった肉体をあらわにした。