山頂 その3
俺と黒のクイーンとの戦い。それは意外にも静かな立ち上がりでも何でもなく、最初からフルスロットルで行われた。
黒のクイーンは先程のやりとりが終わった直後、額に青筋を浮かべ、どこからともなく集めて来た瓦礫を数個に分けて集め、濃縮した後、それを槍状にすると、それらを俺に向かって射出してきた。
文にするとかなりの長さだが、実際にそれらの動作が行われた秒数は僅か数秒。両手を交差するだけでこれらのことをやってのけた。さすがは黒のクイーンと言ったところだろう。
(ただ、そこらの瓦礫を集めただけの槍だ。濃縮して硬さを増したとは言え、硬度はたかが知れている。反射を使えば片手で――――)
と、その瞬間だった。
(――っ!? 加速してッ!!?)
こちらに向かってくる途中、全ての槍が示し合わせるように、一段加速したのだ。まるで、ギアチェンジしたロードバイクのように。
しかも、それだけではない。示し合わせたかのように加速したと言ったが、同時に動いたのは加速した瞬間だけで、加速の度合いは槍によって違う。スピードが変わっているのだ。これでは、着弾するタイミングに合わせて反射を発動して跳ね返すことは困難。
(あんにゃろ……確かにプロモーション戦でスキルを見せたが……もう対策を思いつきやがったな……)
俺相手に接近戦を挑まず、遠距離から攻撃するにしても、それぞれ速度を変え、わざわざタイミングをずらそうとするこの感じ。間違いなく対策している。黒のクイーンからしたら、俺のスキルは何かしらを弾き返すスキルだと読んでいるのだろう。
(大当たりだ……けど、1つだけだな)
確かに黒のクイーンの予想は当たっている。が、それは俺の能力が反射だった場合に限る。
俺のスキルはもともと反射だったわけではない。あともう一つ、元々体に宿していた本当のスキルがある。
"闘力操作"
体がメキメキと音を立てるのを感じる。肉体が精神的にではなく、物理的に強くなっていくのを感じる。闘力と言う俺にしかない力。この世界で探せばこれより強力な力などいくらでも存在するであろうこの力は、いつもどんな時も俺の中にいた。反射よりも付き合いが長いスキル。
東一時代こそ、ちょっとパンチの威力が上がる程度で、ガチで、全く何の役にも立たなかったスキルだが、それは闘力の総量が少なかったからだ。前と比べ、総量が格段に向上した今なら、十分に利用できるスキルだと言うことは、今までの経験からも明らかだ。
加えて、この体があれば……
世界が止まる。頭から血の気が引いていく感覚がする。音を、光を、時間を、血すらも置き去りにし……
「見切られることはない!!」
右の一撃で、黒のクイーンを地面に叩きつけた。