逆
私のオーラナックルにより、ゴーレムは原形を留めることなく、計6体。すべてのゴーレムは木端微塵に破壊された。
本来ならゴーレムだったものの破片がごろごろと音を立て、落下していくのだが、黒のクイーンのスキルの膜が無駄に再発動したのか、音を一切立てず落下していった。
(煽ったのはいいものの……正直、なんも思いついてないんですよね……)
ゴーレムを破壊する手段は思いついた。が、同じ戦法が黒のクイーンに通用するとは考えずらい。
ゴーレムの場合は、黒のクイーン本体とは別の体に取り付けた外付けの能力付与だったため、ある程度以上の自由自在なスキル使いができないところを突けただけ。引力に対する根本的な対策法にはつながっていない。
(攻撃が後出しで防がれるのは、膜を張っているわけではないだろうし)
黒のクイーンのスキル、引力のことをあまり知らない私が言うのもなんだが、自分の体なのに、いちいち自分の意思で切り替えなければならない膜を張るのはあまりにも非効率すぎる。自動的にオンオフができる膜があるならゴーレムに使っているだろうし、自分の周りなら膜だとかそんなの関係なく、引力の力をダイレクトで使うことができるのだろう。
(ここからはできるだけ……効くか効かないかはともかく、黒のクイーンが見たことのない私の技で翻弄していくしか……)
が、それでもなお、スキルの完璧な対策にはつながらない。完全な時間稼ぎ。
「……はぁ」
そんな時、黒のクイーンはため息を付き、遂に手に持っていたはずのスマホを隊服のポケットの中にしまい込んだ。
(っ……遂に……!)
黒のクイーンを臨戦体制にさせた。その事実に私の心は人知れず跳ねる。
「あなたは本当に……厄介なのかそうじゃないのか……とにかく、面倒なことは間違いないわね」
黒のクイーンは人差し指をこちらに向け、くいっとその指を曲げる。
「ご褒美をあげる。こちらに来なさい」
その瞬間、黒のクイーンと私の距離はゼロになった。
(な…ん……!)
私の視点から見れば、黒のクイーンが急に瞬間移動しているとしか思えないその動きだったが、今までにない速度で眼球をぐりぐりと動かし、周囲の景色を確認することで、黒のクイーンがこちらに移動したのではなく、こちら。私自信が黒のクイーンの側へ移動しているのだとわかった。
(スキルで移動したのか!! なら、こちらは距離を――――)
相手側から距離を詰めてきたと言うことは、当たり前だが、黒のクイーンにとって、距離が短い方が都合が良いということ。本来ならば願ってもないチャンスだが、後出しで攻撃を跳ね返される以上、距離を取るしかない。
取るしかない。のだが――――
「! 足がっ」
足が動かない。いや、動こうとしている感覚は感じるのだが、その通りに足が動かない。足が言うことを聞かないと言うよりは、足を押さえつけられている感じだ。
(スキルで抑え込んで……)
こんな状態では、今向かってくる黒のクイーンの右拳を防ぐことなど……
「ごがっ……!」
不可能であった。
頭が吹っ飛ぶ。脳がバチバチとショートを起こすのがわかる。
黒のクイーンはどうしてもスキルばかりが注目されがちだが、単純な身体能力も抜群。それに加えてこの威力。おそらくだが、スキルで私の頭をS極、殴るための右拳をN極にして、引っ張る力を加えることで、威力を大幅に上げているのだろう。
それによって、頭があらぬ方向に吹っ飛び、頭と右拳に距離が空く。
距離が空いたのだ。距離が空くということは、つまり、さらなる攻撃が、正しく言えば、私の頭の方から殴られに行ってしまう。
当然、私は動けないため、さらなる一撃をモロに受けてしまった。
「ぐ、ばっ……」
わさびを多めに食べた時のツーンとした感覚に続いて、鼻から温かい液体が垂れてくる。口元が口内の歯と拳とで挟まれてしょっぱい液体が噴出する。
(まずい……思った以上の威力が……)
「……まだよ」
頭が吹っ飛び、また頭と拳の距離が空く。スキルの効果が再び発動し、頭から拳に近づき、一発貰う。また頭が吹っ飛び、距離が空いて、スキルの効果が発動し……
無限に飛び込んでくる拳のラッシュ。頭が何度も後ろに吹っ飛ぶ姿はまるでメトロノーム。一撃のダメージがいくら小さくとも、これならいつか私を倒せる。さらには黒のクイーンのスキルで今までの衝撃音は外に漏れていない。これでは援軍も望めない。
(このままじゃ……飛ぶ……と言うか……)
死ぬ。そんな言葉が頭をよぎった。
ただそれは、とある一言で脳から霧散することになる。
「お前……派手にやられたなー」