日常生活 その2
引力。それは質量を持つ物も、者も誰もが等しく持っている引っ張る力だ。
他の何かしらを操る能力とは違い、力とは言っているが、引力と言うのは、重力とは微妙に違う。例えば、磁石のS極とN極が引き合う力である磁力も、電気のS極とS極が引き合う力も、等しく引力だ。
それだけではなく、似たような力である重力っぽいことも難なく扱える。先程の床の一部を止めたのがそれだ。
(……)
ぱっと見で思いつく作戦として、効果範囲から離れて永遠と攻撃する方法が挙げられる。もちろん私も思いついたが、それはすでに過去に手合わせした時に試したことがある。
結果から言うと、全くと言っていいレベルで通用しなかった。距離を話したと思ったら、一瞬で詰められているのだ。まさに閃光の如し。スキルだけでなく、通常状態の身体能力も優れている。
冷静に考えてみれば、そもそも自分のスキルの弱点が効果範囲なんてことは黒のクイーンでなくてもわかることだ。対策していないわけがない。
(とりあえず距離を取る戦法は通用しない。ならどうする……?)
ぶっちゃけ、この戦い自体、私がカッとなって始めてしまった戦いである。この戦いが始まる前までは、黒のクイーンを倒すための算段を立てようなんて考えてもいなかった。つまり、始まってしまった時点で、私の方が圧倒的に不利。
(関所から外に出れば、彼の助けを求められる……だけど、黒のクイーンが逃げている私を見逃してくれるかどうか……)
先ほど私に興味はないと言っていたが、あれは間違いなく本心だろう。
しかし、だからといって私を生かしておく理由にはならない。神奈川派閥からしてみれば、私は神奈川の情報を握って逃げた裏切り者。彼と言うイレギュラーがあまりにも強大すぎるだけで、私も通常ならかなり優先されるべき対象だからだ。
(それに、彼のところに逃げたとして、彼が勝てるかどうか……)
……いや、勝つか。
しかし、激戦になることは必至だろう。そして黒のクイーンがわざわざこんなところまで来ていることを、部下たちが知らないわけがない。そのタイミングで他のチェス隊。特に黒のクイーン直属の黒のルークなんかが来てしまえば、彼とてただでは……
いや、勝つか? ワンチャン……
(い、いやいやいや……)
とにもかくにも、今このタイミングで彼のところに行くのは得策ではない。なら……
「…………やりますか」
知らせるしかない。