深夜
その日の深夜、袖女と一緒に神奈川派閥脱出の段取りを済ませた俺は、ホテルマンにバレないよう、部屋の端の外からこっそりと脱出し、神奈川派閥の外へと出る道路の関所近くまで来ていた。
(袖女……うまくやってくれよ……)
俺はそう思いつつ、数時間前の話し合いを思い出していた。
――――
「私がぁ!?」
「そうだ。お前が……関所の警備を殺りにいけ」
数時間前、神奈川派閥を脱出するため、作戦の段取りを進めていたのだが、話し合いが進むにつれて、1つの結論にたどり着いた。
それは、袖女が単独で関所に侵入し、警備を殺した後、誰もいなくなった関所を俺とブラックが堂々と通ると言う作戦だ。
袖女が警備員を始末している間、俺とブラックは2人がかりで関所の周りをチェックする。ブラックは超人的……いや、超犬的に鼻が聞くため、チェス隊メンバーの匂いを感じ取れるからだ。
もし、仮に袖女が侵入中に外部からチェス隊が刺繍を仕掛けてきた場合は、俺があたりの建物ごと関所を破壊して、袖女を拾い上げ、瓦礫で視認性を悪くしたタイミングを見計らって無理矢理脱出する。
この作戦なら、仮に失敗したとしても、まだ脱出するルートが残されている。だが、神奈川派閥側に俺たちが脱出したと言うのがばれてしまう部分、更なる追っ手の可能性も考えなくてはならないが……
(ま、大丈夫だろ。いざとなれば……)
俺の中にある正方形。あれを使ってでも……
そう思案していた時、袖女からふと質問を投げかけられた。
「……結局始末するなら、私じゃなくてあなたの方が良いのでは?」
確かに、殺すだけならば袖女よりも俺の方が速く、スピーディーに殺せるだろうし、俺と袖女の実力差的にも適任だ。が、今回の作戦はただ殺すだけではない。民間人にばれぬよう、静かに殺すことが重要なのだ。
「それは違うな。これはお前にしかできない」
静かに殺すことが前提条件である今回の作戦に置いて、袖女のスキルのデメリットであるはずの、攻撃に貫通力がない点がメリットに働くのだ。
貫通力がない攻撃であれば、俺の攻撃と違って、周りの床や壁を巻き込むことなく、最小限の被害で収めることができる。事実として、東京派閥で内務大臣と外務大臣を殺害した時、袖女にボディーガードの殺害を頼んだのだが、料亭の中にいた人間が気づかないほど静かな物音で制圧することに成功していた。
故に、袖女が掃除役をすることは必定であり、変更はありえない。
(俺のレベルが高くなりすぎただけで、袖女も世間一般的にはトップレベルの強さを誇っているだろうからな……よほどのことがない限りは、警備員ごときに不覚をとることはないだろ)
「頼むぞ……」
――――
そして、現在――――
「……袖女」
静かで地味、だが重要な作戦の火蓋が今、切られた。