考察
数時間後、神奈川派閥の領地から抜ける一歩手前のところまで来た俺たちは、近くのホテルに部屋を取り、明日まで待つ構えを取っていた。
理由は神奈川派閥の外に出るための通過点。関所にある。
ウルトロンを盗んだ時は派閥全体に伝達する時間を与えずに脱出したこともあって、街中の大型テレビで報道として、ニュースになることはなかったが、神奈川本部からの犯罪者の脱獄、黒ジャケットが引き起こした神奈川派閥に対する甚大な被害は、さすがに報道陣の目に止まったらしく、街中の大型テレビや新聞、果てはネットニュースにまでなっていた。
それにより、関所だけでなく、神奈川中の警備が厳重化し、俺と袖女の顔は指名手配犯として知られてしまった。もはや、街中では顔を出すことすら難しいだろう。
「……と言うわけで、報道やニュースになって、俺たちの顔が調べ始めているうちにホテルを取り、警備が多少軟化しているであろう深夜に脱走しようとしているわけだが……どうだ? 袖女」
ホテルの1室にあるベッド。そこに座り込んでいる袖女に俺は話しかけた。
「いい作戦だと思います……が、いい作戦なだけに、簡単すぎるかと」
「ふむ……」
「単純に夜も警備が厳重だったらそこまでですし、そうなったときのリカバリーが効かない。何より……」
袖女はそこまで話した後、先ほどコンビニで購入したペットボトルのキャップを外し、中に入ったお茶を一飲みした。
「……あの黒のクイーンが深夜帯に来ることを想定していないとは、とても思えません」
「……ま、そうだわな」
あまりにも普通すぎる作戦。それは実行するにはあまりにも頼りなく、それでいて、相手も容易に想像できる作戦だ。
だが、神奈川派閥はとても広く、人口量も凄まじい。人間と言うのは、人が多ければ多いほど、「自分が休んでも大丈夫」と怠けてしまう生き物だ。俺たちが通ろうとしている場所を警備している兵士たちも、まさか自分たちが警備している場所を利用して犯罪者が通過しようとしているなんて思わないだろう。狙うとしたらその点だ。
しかし、これも人の精神の問題と言う不確定要素満載の希望のため、そこまで頼っていいものではないだろう。
穴だらけの作戦なのは百も承知だが、他に作戦が思い付かない以上、実行するしかない。
(多少予想外のことが起きても、俺と袖女で突破。露払いをブラックに任せればどうとでもなるはず……)
「袖女。今の内に深夜の作戦の段取りを考えるぞ」
「ほーい」
「ワン!」
(……とりあえず、不測の事態にも対応できるように、できる限りのことをやらないと)
袖女、ブラック、俺の3人で、ゆっくりと話し合いを始めた。