追っ手
敵が来ていると聞いた時、普通の人がどのような行動をとるだろうか。
慌てて戦闘準備をする? 冷静に逃げる算段を立てる?
俺の選んだ行動は、そのどちらでもなく、もっと話を聞くことだった。
「敵の正確な数は?」
「3人です。空を飛んでこちらにやってきています」
「3人か……」
追っ手にしては明らかに数が少ない。本人たちの独断による行動だろうか?
(それにしては数が少なすぎる。黒のキングとの戦いは見ているはずなのに……)
何か策があると考えた方が良いだろう。
「その3人は強いかどうかわかるか?」
「ええ、3人とも間違いなくチェス隊メンバーです」
「その根拠は?」
「私のスキルの応用で、オーラをくっつけて感知できるんですよ。いわゆるマーキングみたいなものです。ですが、かなり近くにいないと感知できないし、他のことが考えられないほど集中していないと、そもそも感知すらできませんがね……あ、ちなみに昔戦った時も、これを使って追いかけたんですよ」
「ふぅん……それで?」
「私がマーキングしているのはチェス隊メンバーとあなただけです。なので、私が感知できるということは、チェス隊メンバーで間違いありません」
「……なるほどな」
袖女の言うことが正しければ、今向かってきている3人は間違いなくチェス隊メンバー。なら、袖女1人に任せる選択肢は愚行だ。だからといって逃亡したとしても、速度的に遅かれ早かれ追いつかれる。俺とブラックを含めた3対3の戦いはまず必須となるだろう。
ズキッ
「うぐ……」
戦いは多分勝てる。問題は決着にかかる時間だ。
(戦いにあまり時間をかけていると、加勢に何者かが来る可能性がある……!)
チェス隊メンバーがこちらに来ていると言うことはつまり、神奈川派閥の中で何かしら、こちらのしっぽをつかむ情報を手に入れたと言うことになる。となると、加勢として他のチェス隊メンバーが遅れて参戦することも可能性としてなくはない。
つまり、戦うなら一気に大技で決め切る。それしかない。今なら神奈川派閥の本体がいるであろう神奈川本部から大きく離れているし、建物を壊すほどの被害を出してもそこまで早く気づかれはしないだろう。
「……袖女、戦うぞ」
「! 了解です」
戦う判断を下したのが意外だったのか、袖女は少し遅れて反応した。
「一撃で仕留めろ。民間人への被害は考えるな」