逃亡戦線
俺たちはあの後、神奈川本部周辺を後にし、一刻も早く神奈川派閥から脱出するため、空を飛んでいた。
「ふーっ……」
「近くのコンビニから水を買ってきました。これで幾分かマシになるはずです」
「ああ……悪いな」
……が、先ほど説明した体中の痛みにより、神奈川派閥に来た時ほどスピードが出せず、神奈川派閥の外側。B市にあるコンビニの近くで休憩をとっていた。
ズキン……ズキン……
「ぐっ……」
(一体何だってんだ……? こんな大事な時に……)
俺は既に成長は止まっている年だ。成長痛ではない。白のクイーン戦での戦いも、なんだかんだ体の芯に響くほどのダメージはなかった。ということはつまり、この痛みは戦い関連で生み出されたものではないことがわかる。
そこまではわかっているものの、肝心なそのものの原因がわかっていない。それがわからない以上、この思考も無駄そのものだ。
(とりあえず、今は体に無理をせずに動く。それを第一に考えなければ……)
水が入ったペットボトルを傾け、口に一口分流し込む。
「ふぅ……」
(何にしろ、戦闘自体は万全の状態でも極力避けるべきだな。今考えるべきは、いかに早く神奈川派閥外に出るか……)
計算では、今日中で間違いなく派閥外には出られるだろう。だとすると問題は、いかに神奈川派閥の追手を振り切る、または対処するかだ。
(全開時よりも明らかに遅いとは言え、通常の人間からすれば超人的なスピードで動いているんだ。ならば、いくら?神奈川派閥に俺たちを追えるスキル所有者がいたとしても、追いつくのには数分かかるはずだ。その時間分休むことができる)
さらに、追っ手は手負いの俺並みのスピードで動くことが可能なスキル所有者に限られるため、神奈川本部に閉じ込められた時に比べれば、対処は容易だろう。
(この逃亡戦、俺側が格段に優位……!)
「……! あの、報告が」
「ん? なんだ?」
そんなこんなでペットボトルの水を飲んでいた俺だが、隣に座り込んでいた袖女が急に話しかけてきた。
「まだ到着に数分かかりますが……敵が来てます」