槍の先の末路
手刀ならぬ、手槍。それは、普通に撃てば間違いなく周りへの被害が甚大なことになる威力を持った一撃を、一点に集中させることで、周りへの被害を軽減しつつ、さらに破壊力を高めることができる一撃。攻撃範囲の問題で、相手が多人数の時は意味がないことを除けば、使って損のない一撃必殺。
土壇場の集中力によるイメージで作り上げたそれは、俺の思った以上の効力となって撃ち込まれた。
閉じた瞳はまだ開けてはいない。だが、手槍の先に、肉をつんざいた確かな感触は感じた。他の人間や動物を身代わりにしていない限りは、間違いなく白のクイーンにダメージを与えただろう。
そして、周りには人は愚か、犬や猫などの動物さえいなかったことを考えると、感じた肉の感触は、ほぼ間違いなく白のクイーンの肉。攻撃は確実にヒットしている。
(せっかく攻撃が当たったんだ……このチャンスを逃すわけにはいかない!)
白のクイーンのスキルは強力だが、強力であるが故に、俺の拳と同じで広範囲を巻き込んでしまうデメリットがある。なので本体である白のクイーン自身に近づいてしまえば、相手は間違いなくスキルを使えない。もしくは使える幅が制限される。そうなれば、いくら合気があろうと、接近戦にもスキルを使用することができるこちらの方がさすがに有利だろう。
(悪いが……勝たせてもらう!)
瞬時に目をかっぴらき、手槍の先にいるはずの白のクイーンに対して、余った左手で一撃を加えようとしたが、そこにはいるはずの白のクイーンの姿はなく、代わりに空気が風となって、左拳に僅かな抵抗感を与えるだけで終わった。
「!! っ! いない!」
いないと分かった瞬間、闘力操作で闘力を体中から一気に放出。俺を中心に半径5メートル程度のものを全て吹き飛ばし、頭をぐるんと回して、あたり一帯を確認した。
(俺の周りのどこかに隠れた! 不意をついて絶対に攻撃を仕掛けてくる!)
相手が現れてから近づくのでは、近づく前に相手の攻撃がヒットしてしまうだろう。なので、相手を目で視認した瞬間何とか距離を取り、しのいだ後にまた近づくのが最善手。
ただ、それも相手よりも先に視認できればの話。
俺は何度も何度も頭を振り回し、いつ襲ってくるか、今か今かと待ち構える。
が、白のクイーンが襲ってくることはなかった。
(……?)
そんなわけないと、30秒、1分と根気よく待ったが、いつまでたっても白のクイーンが現れる気配はなかった。
「大丈夫ですか!? 怪我は!?」
「ワン!」
それどころか、白のクイーンよりも遥か遠くにいたはずの袖女とブラックの方が先に姿を現す始末。もはや俺には何が何だか分からなかった。
「何なんだ……一体」