意外な強さ
死んだふりから起き上がり、刃物と刃物がぶつかる甲高い音の方向に振り向いた。
私の予想では、ブラックが押され気味で、危ない状況に陥っていると考えていたのだが、事実は全く異なり、ブラックがカメレオンを追い詰める展開となっていた。
「くっ……!? この……!!」
尻尾の刃で所々を切り裂かれつつ、屋根の隅にまで後退し、後がなくなったカメレオンは、左手の拳を自分の首の上ぐらいまで持ち上げ、そこから左のジャブを放った。
焦った声とは裏腹に、自分の立場と相手の立場の優位性を考えた鋭く、冷静な一撃。当たれば何とかなる一撃ではなく、まず当たることを前提とした一撃。
(ブラックはまだ防御体制に入ってない……! あれは当たる!)
ジャブは一発の威力は低いものの、ブラックの体格ならかなりのノックバックを狙える。立ち位置を五分五分に戻せるのだ。
「ワウ!」
この戦いの顛末はともかく、カメレオンから放たれた左ジャブは間違いなく当たる。私の予想は、ブラックが空中で体を捻り、左ジャブをうまく回避したことで打ち砕かれた。
さらに、体の捻りを戻す反動を利用して、バネのように勢いをつけて切り裂き攻撃。カメレオンの鼻上から目元にかけて、一本の大きな切り傷をつけた。
「ぐああああ……」
少なくとも戦闘慣れしていないと有り得ない動き。予想以上のブラックの奮戦に、カメレオンも苦悶の表情を浮かべていた。
(彼との夕飯時とかに、神奈川派閥に入ってから修行を積んでいるとは聞いていたけれど……まさか、これほどなんて……)
大阪派閥にいた頃とは格段に違う変化。ブラックも一戦力として数えていいほどのレベルアップを遂げていた。
(すごい……! これなら!)
私が参戦せずしてここまで善戦しているのなら、この勝負、私も戦いに加わればまず間違いなく勝てる勝負になる。そう意気込んで参戦しようとした瞬間、カメレオンに私が起きていることを確認されてしまった。
「……ッ! ちっ、ここまでかよ……!」
こうなると、さすがのカメレオンも部が悪いと感じたらしく、顔を私たちとは逆方向に回し、旅館らしき建物に向かって舌を発射した。
「何を……!?」
そんな私のつぶやきを置き去りに、発射された舌は旅館の屋根に突き刺され、舌を戻す勢いで戦線から離脱しようとする。
(まずい……! ブラックには遠距離に対しての有効手段がない!)
つまり、時間が経つたびに旅館に向かって離れていくカメレオンを追撃できるのは私だけ。
私しかいない。この事実を理解した瞬間、私の脳は急速に集中を初めていた。
「集中……」
意識を右拳に集中させながら、空気中にある『何か』を集めていくイメージを形作る。右拳は私のイメージに感応するかのように強く光り輝く。その輝きは、通常のオーラナックルとは明らかに違うエネルギーを思わせた。
「フラッシュ……ナックル!!」
光の弾は、カメレオンを旅館ごと破壊した。