槍
妥協して、スピードもさほどない攻撃を貰う筈がなく、左手で全ての攻撃を叩き落とした。
(そんで……)
白のクイーンの攻撃を全て捌き切ると、俺はすぐさま腰を落とし、右腕を体の後ろにセッティング。拳を握りしめ、攻撃の体制に入った。
俺の攻撃体制を目視した白のクイーンは、体を後ろに下げることもなく、さらに踏み込んで右手に拳を形作り、俺の顔面に向けて放とうとする。
理由は白のクイーンの体の性質だろう。白のクイーンの体は、先ほども言った通り、まるで水風船かと思うほどの柔らかい作りになっているので、打撃による攻撃はほぼ通用しない。
どうせ効かないのなら、攻撃した後隙を利用して、さらなるダメージを俺に与えた方が合理的かつこの先も有利だと考えたのだろう。
(当然だ。俺でもそうする)
俺でもそうする。つまり俺が想定している動き。
(だからこそ読める)
読めているのなら、後は対処法を実行するだけなのだが、問題なのはその対処法だ。対処法が思いつかないと、いくら相手の動きが読めても意味がない。
(ま、俺は思いついてるんだけどな……)
右拳を抜き出し、発射しようとするコンマ数秒前、俺は静かに瞳を閉じた。
白のクイーンの体にダメージを与えるには、衝撃でダメージを与える拳では駄目だ。もっと鋭く、鋭利で、簡単には壊れないものが必要となる。
それこそ、鋭い刃物ような――――
(鋭く……鋭く……)
真っ暗闇の視界の中で、少しずつ刃物のイメージを固めていく。
普通のナイフでは駄目だ。強度が足りな過ぎる。となると、同じ理由で刀も駄目。使いこなせれば話は別だろうが、俺にそんなスキルはない。
包丁……は、論外として、黒剣で刃物の中では使い慣れている西洋剣はどうだろうか。西洋剣なら耐久力も十分だし、切れ味も申し分ない……のだが、肝心の俺の拳は、白のクイーンに対して撃ち込もうとしている。剣の攻撃方法で言うなら、突きの形だ。西洋剣は突きに向かない。
ならレイピア……? しかしあれは耐久力が……
悩み続けて0.3秒。考えに考え抜き、俺が出した答え。
(レイピアよりも耐久力に優れていて、かつ西洋剣と比べて突きに特化している刃物……)
生み出したイメージを、脳から右腕の神経に伝達。それにより、拳の形は自然と変形し、イメージに最も適した形に変わっていく。
イメージした刃物。それは……
(槍)
握り拳でもなければ、手刀でもない。そのどちらにも当てはまらない全く新しい手の形。名をつけるなら、『手槍』。
「…………行け」
全く新しい新技術は、風を裂きながら白のクイーンのわき腹へとまっすぐに発射され……
「……ぐぶッ!!?」
血のグラデーションとともに、わき腹を突き破った。