メーン
拳よりももっと面が広い攻撃で、中の液体を流動させ、中身ではなく皮膚を耐えられなくして破裂させる。作戦は決まった。後はその方法だ。
(攻撃方法は……拳のラッシュで十分か……)
今の俺なら、ほぼ同じタイミングで拳の攻撃を連打するのは造作もない。違う箇所に一発ずつ叩いてやれば、蕎麦の元を伸ばすかのように、白のクイーンの体は広く伸びるはずだ。
そうなれば、きっと確実に皮膚が中身の動きに耐えられなくなり、破裂する……はず。たぶん。きっと。
(ちぃ……何一つ確証情報がないとこがネックだな……)
正直、白のクイーンの体の柔らかさが、俺が散々語った水風船と似た機構で動いているのかどうかは定かでは無い。殴ったときの感触と、水に衝撃を与えた時の水紋らしき模様。そこの部分だけで判断したためだ。
もしかしたら、今の今まで考えたことが全て無意味だったかもしれない。だが、考察しないことには勝利は得られないのは、今までの経験で確証済みだ。
実行に移さない限りは何も前進しない。もしかしたら間違えているかも。と思う前に、体を使って試してみないことには、何も得られないのだ。
(後は……いかに殴るタイミングを作るかだ)
白のクイーンの動きは、黒のキングほど速くはない。ついさっきも一気にスピードアップしただけで、懐まで潜り込ませてくれたし、水風船のような体がなければ、間違いなくダメージは与えられていた。よって、どうやって近づくかは問題ではない。肝心なのは、どうやって連続で殴るだけの隙を生み出すかのみだと考える。
(戦いでは相手の隙を常に伺ってきたんだ……隙を作ることぐらい造作もねぇ!)
俺は右足を地面へ強く踏み込み、真下の地面を陥没させ、ヒビを入れる。地面のコンクリートを陥没させるほどの衝撃により、コンクリートの破片が俺の周りにいくつか浮遊する。
一瞬の衝撃によって浮いた破片のため、数秒後には地面へと戻ってしまう破片だが、数秒もあれば、手の中へ破片を包み込むことは簡単だ。
「フンッ!!」
スキルを使うことなく、手の中に握り込んだ破片を投擲した。
構造的には、少し前に行った行動と全く一緒の動き。相手にとって、普通なら楽勝の動き。何ならこの程度で一動作分体力を消耗してくれてありがとうと思ってしまうだろう。
だが、白のクイーンは先ほどと同じく、小さなコンクリートの破片を回避するには、あまりにも大げさな動きで回避した。
(やはり……)
これはおそらく、俺のスキルを警戒しての動きだろう。
数時間前、俺はプロモーション戦で手の内のほとんど全てを明かしてしまった。その時のスキルを見て、破片にも何か仕掛けが施されているかもしれないと考えているのかもしれない。
(反射ももろに使っちまったからな……)
しかし、これは大きなプラス要素だ。コンクリートの破片でも小石でも、投げれば白のクイーンは大袈裟に回避してくれる。
(このプラス要素をうまく利用すれば、隙を作ることなんて――――)
たやすい。そう思ったその時、白のクイーンは予想外の行動に出た。
(なっ! そっちから――――)
なんと、白のクイーンは破片を回避した後、大きく足を踏み込み、俺の方へと向かってきたのだ。
さっきとは全くの真逆の構図。俺が待ち構え、白のクイーンが向かってくる構図だ。
「いっくぞー!!」
白のクイーンは左手を前に出すと、後方の地面や壁から柱を数本出現させ、自分と一緒にこちらに向かわせる。
(なるほど、これじゃあ的を絞りづらい……!)
白のクイーン本体からの攻撃を防いだら、柱からの攻撃を受けることになる。かといって、柱からの攻撃を防いだら、白のクイーン本体からの攻撃が来る。単純ながらも強力な二段構えだ。
白のクイーンと言う立場のため、街中と言うフィールドでの全力が出せないがゆえの妥協手段なのだろうが……
「妥協した攻撃ごときで……俺が倒せるわけねーだろ!!」
俺は反射を使い、呼び出された柱ごと、白のクイーンの攻撃全てをはたき落とした。