頭の回転
まず、白のクイーンのできることをおさらいしておこう。
体術、スタミナはプロモーション戦で見た感じ、かなりのものである。小柄な分、的も小さい。
しかし、小さい分、体重も軽いからか、一発の火力はさほどない。それでも一般的に見れば、超人的なレベルではあるが。
一発の威力は確かに小さいが、威力が小さいという弱点を見事に合気道でカバーしている。合気道は相手の力を利用するため、自分の力のなさは関係なく、大きなダメージを与えることができるからだ。
さらに、白のクイーンにしかない体の性質として、普通の人間よりも柔らかい体がある。関節が柔らかいとかの意味の柔らかいではない。根本的に肉体そのものが、中身に水しかないんじゃないかと思うほど柔らかいのだ。中身に肉や骨が入っているとは思えない柔らかさ。そのせいか、打撃での攻撃は攻撃の意味をほぼなさない。
これだけでもハイスペックなのだが、白のクイーンはこれらに加え、スキルも強力の一言だ。
白のクイーンのスキル。それはおそらくだが、レンガの壁を作る能力だと推測する。
ただそれだけだと楽なのだが、問題はそのレンガの壁の硬度だ。最初に不意打ちで右ストレートを喰らわせた時、後ろの建物と白のクイーンの間にクッション材として挟まれたのだが、その時にもレンガの壁は壊れることはなかった。
このことから、レンガの模様はただの飾りであり、中神はレンガなどではなく、もっともっと硬度の高いガチガチのものだと推測できる。
(ただ……もし硬度が高いもっと別の材質のものだとすると、クッション材として使用された時、白のクイーンのダメージは軽減されず、普通にダメージを負っているはず。なのに白のクイーンはピンピンしていた。だとすると……あのレンガの模様の壁はおそらく、瞬時に性質を変えられるに違いない)
最初の不意打ちを例に挙げるとするならば、硬度は高く、性質はゴムのように柔らかくしたのだろう。そうすれば、レンガの壁は壊れることなく、自分の体に訪れるであろうダメージをレンガの壁へ流すことができる。
これが白のクイーンの一通りの性能だ。見れば見るほど笑いがこみ上げてくるが、今までもこんな奴らとばっかり戦ってきたからか、思ったほどの絶望感はない。むしろ少しワクワクする位だ。
(さぁ……どう打ち崩そうか!)
プロモーション戦で初めて見た時、あの幼なじみの顔がフラッシュバックし、殺したくなる衝動に駆られた。なので、いざこうやって相対した時、なりふり構わず衝動のままにぶち殺しに行くんじゃないかと思っていたのだが、実際のところはそんなことなかった。やはりどこまでいっても別人と言うのと、客観的に見ても危ない状況に置かれていることが、脳を理性的に働かせ、衝動を抑えているのだろう。
とにもかくにも、俺が生き残るには白のクイーンを打ち崩すことになる。しかも、ただ倒すだけではダメだ。周りに気づかれないよう、建物の倒壊などの二次災害を防ぎつつ倒さなければならない。
「…………」
この条件を満たしながら倒すことについての1番の障害は、スキルでも合気道でもなく、体の性質、その軟体性だ。あれのおかげで、生半可な打撃は通用せず、周りを巻き込むような超強力な攻撃でないと、ダメージすら与えられない。
手っ取り早くダメージを与えるなら、先に言った単純にパワーでダメージを与えるというのが1番だが、それによる二次災害が半端じゃない。
ここで一旦、白のクイーンの体の性質について、もう一度考えてみよう。白のクイーンの体は水が入った風船のようにブヨブヨとしており、ほとんどの打撃攻撃を無効化する。
(……ただ、完全に無力化する能力と言うわけではない)
体の性質は打撃攻撃を無効化するために生まれたのではなく、体の異常な軟体性の結果、打撃を無効化するに至ったのだろう。簡単に言うなら、打撃を無効化するために体が柔らかくなったのではなく、体が柔らかくなったから打撃を無効化できるようになったのだ。
(……なら、やりようはある!)
先ほども言ったように、白のクイーンの体は中に水しか入っていないのかと思うほど、柔らかさに優れている。何度も言うが、まるで水風船だ。
(水風船は高いところから、地面に向かって落下させると、ものの見事に破裂する……)
何故かと言うと、流動する水の動きに周りのゴムの膜が耐えられず、破裂するからだ。
それで水風船が割れるなら、同じ方法でやればいい。
(面が大きい攻撃をすれば、打撃攻撃でも、中の液体の流動に耐えられなくなって破裂するはず……)
作戦は決まった。後はそれを実行するだけだ。