襲来
白のクイーンの話は神奈川派閥の中ではもちろん、他派閥でも有名だが、存在しているかしていないか定かではなかった。
神奈川派閥を内部から自分のものにしようとしていた俺としては、いない方がありがたかったのだが、今日のプロモーション戦で、初めて、その姿を視認できた。
あいつを思わせるようなかわいい顔立ち。あいつとは真逆の金の長髪。あいつを思わせるような強さ。
全てが全て、あの幼なじみ――――桃鈴才華と酷似していた。
最初こそ驚き、衝動のままに白のクイーンを殺そうと体を動かしてしまったが、直前で堪え、今ではあの顔を思い出すと、殺したくなるぐらい。行動には現れない程度に押さえ込むことに成功した。
俺限定ではあるが、そこまでのインパクトを与えた人物なのだ。インパクトを与えられた当人である俺自身が忘れないわけがなかった。
だからこそ、神奈川本部周りの戦争に白のクイーンがいなかったことは明確であり、神奈川派閥の本拠地近くでの戦争と言う、神奈川派閥の威厳を揺るがしかねない大事件に、神奈川兵士たちのトップオブトップである白のクイーンが参戦しない意味がわからなかった。
しかし、参戦しなかった理由が、俺たちが逃げていると白のクイーンだけが察知していて、単独で俺たちを追っていたからだとしたら……
「――――っ!!」
(狙われるのは――――袖女しかいない!)
もし白のクイーンが俺たちを追っていたとしたら、俺と袖女が2つに分かれたこのタイミングは、白のクイーンにとっては活かさない手のない一世一代の大チャンスだ。
そして、俺と袖女。2つに分かれた俺たちの戦力を効率よく削ぐのなら、まずスキル内容を理解していて、なおかつ間違いなく自分の方が実力が上だとわかっている袖女から潰そうとしてくるはず。
その対策として、ブラックを同行させたが、相手は白のクイーン。この日本の中でトップクラスの存在だ。相手が2人になった程度で、どちらか片方を逃すとは思えない。
(すぐにでも袖女の元へ向かわなくては!!)
「――――と思うよねー」
――――その刹那。
「っあ!!」
俺は声が聞こえた方向に向かって、振り帰りながらパンチを打ち込んだ。
「っ!」
が、声が聞こえた先にいた人物は、俺の拳を片手で包んだ。
別に俺のパンチの威力が高いわけではない。その証拠に、人物の後ろにある建物は、ものの見事に倒壊していた。このことからも、俺の拳の威力が弱いわけではなく、それを方手で押さえ込む声の人物が凄いことがわかる。
「と思うからこそ……逆にーって感じ?」
「……俺を狙ってるだけだろ」
それも当然だ。
それは、思った通り、白のクイーンだったのだから。
(あー…………殺したくなってきた)
神奈川派閥ナンバーワンとの戦いが、始まろうとしていた。