脱出口
「ゴホッ……いつまで掘るつもりですか?」
「待て……もう少し……」
大きな音が地上から聞こえてきて数分。何か戦況を左右する出来事が地上で起きたと感じ取った俺は、ただでさえ急いでいた穴掘りをさらに早めつつ、最初に想定していた場所よりも奥へ奥へと掘り進めていた。
なぜ早めに出ず、すぐ真上が戦場でなくなってもまだ掘り進めているのか。それはこの脱出経路の秘匿性にある。
この洞穴はもちろんのこと、神奈川本部からつながっているのだが、神奈川本部につながっていると言っても、出口はそのさらに地下、地下牢獄の無数にある部屋の一室、その部屋にあるベッドの下に隠されている。
神奈川派閥側も犯罪者軍団を制圧後、間違いなく神奈川本部に突入し、神奈川本部内にいると思われる俺たちを警戒しながら捕まえようとするだろう。だが、当の俺たちは地下も地下。なのでそう簡単には捕まえられない。さらには警戒して進むだろうから、神奈川本部内の侵略速度も早くはないだろう。つまり、俺たちの脱出経路につながる出口を見つけるのには、最短でも15分は時間を要するに違いない。
それこそ、どこかにある洞穴を見つけるみたいなスキルがないと、すぐさま見つけるなんて至難の業だろう。
それに加え、万が一の時のことも考え、袖女に質問をして、そういったスキル持ちがいないことも確認済みだ。
『袖女、お前の知る神奈川兵士の中で、人物の場所を特定できるような……そんなスキル持ちはいるか?』
『え? そりゃまぁ……いるにはいますけど、何か条件付きなのがほとんどですよ? 数時間前に体に接触してないと追跡できなかったり、血液やら髪の毛やらが必要だったり……ひどいものだと、対象人物にキスしないと……』
『……なるほどな』
俺の記憶の限りでは、数時間前に体に触れられた人物は袖女ぐらいしかいない。それに加え、たとえ俺の知らないうちに、血液や髪の毛やらが採取されていて、位置を特定されようとも、スキルによっては平面上の……いわゆる自動車のナビのようにしか見れないスキルも存在するだろう。そうなった時、俺たちの位置は、まるで地上にいるかのように見えるはずだ。ゆえに、俺たちが見つかる可能性は無い。
それさえもくぐり抜け、神奈川派閥が俺の洞穴に入ろうと、洞穴の大きさは一人分しかない。こんなところで高威力の攻撃をしようものなら、そこを中心に地上を巻き込んだ地割れは免れない。
神奈川派閥は派閥の中でもトップクラスの巨大派閥だ。だからこそ、守るべきものが多い。守るべきものを人質にされた時の人間は、本がどれだけ強かろうと、脆く弱いものである。
地上よりも、戦場から離れる速度が遅いと言うデメリットだけに目をつぶれば、地下移動には余りあるメリットがあるのだ。
そして、上から大きな振動が響いたことで、戦場が一段落したかもしれないと言う危機感を覚えた俺は、今地上に出ても秘匿性を失うだけで、すぐに対応されてしまうと察知し、地下移動をもう少し続けることにしたのだ。
(……けど、あんまり長居するのも良くないな……そろそろか……?)
が、いつまでも地下移動が通用するとは限らない。通用しているうちに止めるのが吉なのだ。
「袖女、そろそろ地上に出るぞ。戦場はもうとっくに抜けたころだろうしな」
「はーい」
「ワン」
袖女とブラックの返事を聞いた後、俺は何の前触れもなく、闘力を右腕に流し、頭上の土を破壊し、久しぶりの日の光を体に受けた。