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城内と、グリードウーマンの選択

 城と化した戦場に戻り、一か八か城壁を突き破ってもう一度時間を稼ぐか、ビルのオフィスからそのまま単身逃げるか。


 それぞれにメリットはある。戦場に戻るメリットは、単純に時間が稼げることと、白のクイーンと黒のクイーンの実力が不明瞭であるため、攻撃を吸収して強くなった今なら、もしかしたら神奈川の最高戦力を削ることができるかもしれないところ。


 逃げるメリットは、時間が稼げない代わりに、私自身が生存できる可能性が上がるという所。


 どちらも個人的には捨てがたい選択肢だ。が、いつまでも悩んでいると、城の中でおそらく抵抗しているであろう犯罪者軍団が沈静化されてしまう。あんまり長く悩んでもいられない。



 結果、私出した答えは……



「逃げよう」



 撤退だった。



 撤退する理由として、戦場に戻る理由が不確定情報だったことが挙げられる。黒のクイーンと白のクイーンの強さが不透明だから、実力次第では勝てるかもしれないと言う話をしたが、全然その逆もあり得る。あり得てしまう以上、リスクがつきまとうのだ。


 だが、その点、撤退する理由はメリットが明確であり、確定情報である。要するに、これから取る行動の意味の確実さが明暗を分けた。


「時間だって結構稼いではいるし……ま、彼なら逃げ切っている頃でしょう」


 むしろ、ほとんどすべての神奈川兵士に加えて、チェス隊メンバーほぼ全員を相手にしてここまで耐えたのだ。よくやったと褒め言葉をもらってもいいほどだろう。


「これだけ耐えて、彼が捕まった時は……ま、その程度の男だったと思うだけよね?」


 その一言を言い残し、私は戦場から逆方向へと飛び立っていった。









 ――――









 




「よーし……言ったな……」


 白のクイーンが作り上げた城内で、白のクイーンが溢した独り言。我が黒のクイーン、斉藤様はあまり聞き取れなかったようだが、この私、天地凛の耳にははっきりと聞こえていた。


「何かあったの?」


 斉藤様が白のクイーンに問いかける。


「ううん! 何もないよ。それよりもさぁ……」


 斉藤様へ返答しつつ、白のクイーンは犯罪者軍団側の方へ視線を移す。


「そいつらの後片付け、とっとと済ませてね?」


 地面から伸びた柱に絡みつかれ、拘束されている犯罪者軍団を。


「……ええ。わかっているわ」


 白のクイーンに命令され、斉藤様は歯ぎしりをしながら了承の返事をする。


 私にはわかる。斉藤様は悔しがっておられるのだ。自分1人ではどうにもならなかったことをたった数秒で完遂してしまった白のクイーンへの嫉妬やら、劣等感やら、そういったものを感じているのだろう。


 普段なら味合わせる側だった斉藤様が味合わされる立場に立たされる。黒のクイーンたる彼女にそんなことができるのは、後にも先にも白のクイーンだけに違いない。


 周りの人間も、白のクイーンなんて存在したのかと言う驚きと、自分と白のクイーンの圧倒的差に呆然としていたが、今やっと正気を取り戻し、拘束された犯罪者たちの回収に取り掛かっていた。


 しかし、全体的に空気が暗い。自分たちとの差に未だ愕然としているのだろうか。


「さーて、と……」


 犯罪者たちの回収を確認した白のクイーンは、後ろへ振り向き、出口へと歩いて行く。


「あ、あの……どちらへ?」


 どこへ行くのか、なんとなく気になって、思わず私自身が白のクイーンへと言葉を投げる。



「ん? んーっとね……好みの男の人を捕まえに行くんだ!」



 それはそれは子供らしい、無邪気な笑顔だった。




 



 

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