殴られ得
どこにでもいる犯罪者にぶん殴られる少女。構図としては裏社会にいる人間にとってよく見るものだが、殴られた少女は動く城壁に乗りながら、戦場に乗り込んできて、もはや都市伝説となりかけている白のクイーンを名乗っている。
殴った人物は白のクイーンと名乗って虚勢を張っているだけと判断し、安易に近づいて殴ったわけだが、私としては、白のクイーンと名乗った少女は白のクイーンでないとしても、相当強い人物と睨んでいただけに、正直拍子抜けといった感じだ。
なぜ白のクイーンと名乗った少女が強いと思ったのか、それは白のクイーンと名乗ったからでもはなく、この戦場にここまで目立つ演出をして登場したからだ。
じゃなければ、弱いにもかかわらず、目立つ登場したと言うのは、あまりにも自殺行為だし、普通の人間なら、チェス隊メンバーに任せればいいと思うはず。わざわざ自分が戦場に行かなければならない使命感に駆られる必要性がないからだ。
だからこそ、白のクイーンと名乗る少女は本当に白のクイーン。もしくはそれに近い強敵だと判断したのだ。
(……けど、あんなカスに殴られている時点で、強者とはいいづらいわね……となると、本当にカスの言う通り、ただの虚勢なのか……?)
「アハハ! どう!? 痛いでしょ!!」
(うるさいわね……)
少女を殴った人物は、倒れないまでもぐらりと揺れる少女を見て高笑いを上げる。元々そういう性格の持ち主なのだろう。その笑い顔は信じられないほど楽しそうだ。
ただ……少女が倒れることはなかった。
(……ん?)
ここら辺で私も、少女が殴られてぶっ倒れないことに気づいた。あの人物も、私からすればカスだけで別に弱いわけではない。一般市民から見れば十分な脅威。スキルの詳細は知らないが、スキルの力がこもっているにしろ、こもっていないにしろ、体の未成熟な少女が立ち上がる。パンチを貰っても倒れないのは不自然だ。
「これは……」
「おっ! 殴られても倒れないのね! やるじゃない! じゃあもう一発――――」
「あのさぁ」
少女が言葉を放つ。白のクイーンだと名乗って以降初めての発言。他が気にならないわけがなかった。
「んあ? 何よ」
次に少女が発した言葉は……
「ありがとね」
感謝の言葉だった。
「あなたのおかげで……」
「時間が稼げた」