混沌よりも混ぜられたもの その6
前回に引き続き、グリードウーマン視点です。
(あれが噂の……?)
自分が白のクイーンだと淡々と宣言した人物に、私は注目を向ける。何回見てもこじんまりした体、裾から見える腕は、一般の女性らしく、太ってはいないものの筋肉質には見えないところが、とてもではないが派閥のために戦う兵士には見えなかった。
私自身、白のクイーンの噂は耳にしている。
曰く、筋肉と女性らしさを併せ持つ肉体を持った女性。
曰く、実力は高いが自分の思い通りにならないと我慢できないわがままな女性。
あまりにもメディア露出しないため、所々矛盾を持った噂が一人歩きし、詳細なところが掴めずにいた。なので世間一般的には、『白のクイーンは本当のところは存在せず、他派閥を威嚇するために神奈川派閥自身が根も葉もない噂を流している』と言うものが1番有力な説としてささやかれている。
実のところ、私もこの1番有力な説の信者であった。何故かと言われれば、色々と自分の生い立ちを話さなければならなくなるため端折るが、神奈川本部と言う神奈川派閥のど真ん中で起こっている戦争に姿を表さない現状が、本当は白のクイーンなんて存在しないことを物語っていた。
と、思っていた。
そんなところに本来動かないはずの城壁の激突。城壁から飛び降りてきた謎の少女、一礼してからの自分が白のクイーン宣言。
戦場の動きをピタリと止めてしまうほど、白のクイーンの登場には、衝撃と同時に呆れがあった。
「あんたが白のクイーぃンんん? ははっ、面白い冗談だこと!」
シーンと静まり返った戦場を、打ち破るかのように響いた一言。その持ち主は薄ら笑いを浮かべつつ、独特のリズムを刻みながら、白のクイーンと名乗った少女に近づき、おでこを人差し指でとんとんと叩いた。
「あのなぁ、今、お姉さんたちは戦争中なのよ。わかる?」
赤子をあやすのに似た物言いに、どこからかクスリと笑った声が聞こえる。それに気分を良くしたのか、少女の前に立った人物はさらに言葉を並べる。
「あの壁を本部にぶつけて威圧してるつもりなんだろうけどさ、お姉さんたちもそこそこ強いわけよ。もちろん私も、いや私はもっと強いんだよね」
「おい!」
「どさくさに紛れてアピールしてんじゃないわよ!」
「うるさいわね! ……だからね。お姉さんはわかるわけよ。あの壁、他の人にやってもらってるんでしょ? あたかも自分は強いですよってアピールするために」
他の犯罪者にヤジを飛ばされるが、先程の笑い声に比べて明らかに感じる周りの反応にさらに気分を良くした。
「…………」
そんな中、私は静観を保っていた。
少女の前に立った人物のイキりが寒いこともあるが、戦場の動きが止まっている今、神奈川派閥側の動きが気になるからだ。
(結局、チェス隊の物理攻撃が使えるメンバーを手刀で気絶させる前に白のクイーンがきてしまった……戦える人数自体は減ってはいない。何よりも、黒のクイーンが戦場の動きが止まったタイミングを逃さないわけがない……!)
私のそんな考えをもちろんのこと知る由もなく、少女の前に立った人物は、自分のアピールの締めとして、右拳を握り締めて一言。
「だからこんなところにいたら…… 潰れちゃうよっ! こんなふうになぁ!!」
握り締めた右拳を振り下ろし、見事に顔面に直撃させた。
その一撃は少女を吹き飛ばすことはないにしろ、頭の吹っ飛び方、そして着弾地点である頭から鳴り響いた鈍い音から察するに、まぁまぁの威力であることがうかがえる。少なくとも、普通の人間なら、一撃で気絶してしまうほどだろう。
「……! 以外ね。返り討ちを貰う流れだと思ったのだけど」
少女が本当に白のクイーンだったにしろ、そうじゃないにしろ、この戦場に来た以上、ただ者ではないと睨んでいた。あの程度の人物など、片手で瞬殺できる位には。
本当にただ虚勢を張っていただけなのだろうか? それとも……