混沌よりも混ぜられたもの その5
最初は伸太視点。その後、グリードウーマン視点です。
ビルが倒壊する音、攻撃を地面に叩きつけた音、地面が隆起する音。
耳に心地よくはない戦場の音に合わせて、地面が揺れる。その振動は、地下にいる俺たちに、常に少なくとも揺れを感じさせていた。
が、ここにきて1番の揺れ。他の揺れとは比にならない一際大きな振動。それは何か、戦場になっている地上で大きな出来事が起きたと予期させるものだった。
(グリードウーマンが本気で攻撃したか? いや、グリードウーマンの攻撃手段は体術による単純なものだったはず……殴っただけで、地下にいる俺たちをしても大きく感じるほどの振動を起こせるのか?)
グリードウーマンのスキルについては、グリードウーマンを捕まえた後、調べていたので一応は把握している。そのため、神奈川派閥のチェス隊、その全力攻撃を吸収し、パワーアップしたのもわかっている。
ただ、だからといって、そんなにパワーアップするものなのだろうか。と言う不信感が俺の頭から離れない。となると、もっと外部、他の人間、もしくは不特定多数の人間による行動によるものだ。
(複数人か、それとも大きな力を持った単体の人間の力か……)
「ワン! ワワワン!」
「おお、ブラック、落ち着け」
大きな振動が起き、いまだにパニックになっているブラックの体を持ち上げ、頭を2〜3回撫でると、ブラックはすぐに落ち着き、吠えるのをやめてくれた。
「一体何だったんですかね?」
袖女が問い掛けてくる。その言葉の中には、自分たちは本当に逃げ切れるのかと言う不安と、上で一体何があったんだと言う興味が混じり合っていた。
「……さぁな、本当のことはわからん。だが……戦争の終わりはもうすぐかもしれないぞ」
――――
突然鳴り響いた、何かにぶつかるような大きな音。それと同時に感じる地面を大きく揺らすほどの衝撃。その原因は、戦場にあるものではなかった。
「あれは……!」
私の目線の先にあるのは、戦場の中に割り込んできた白い城壁。その城壁は戦場の外から伸びており、その始まりは遠く向こう。どこから伸びてきたかはわからないほどの長さとなっている。まるで万里の長城のようだ。
先ほどの衝撃は、白い城壁がこちら側へと伸びてきて、神奈川本部に激突した時の衝撃によるものだった。
(なんだ……?)
明らかにおかしな光景。通常、人工物で決して動くことのない城壁が、まるで生き物のように動き、戦場のど真ん中にある神奈川本部へと激突した。明らかに第三者のスキルによる犯行だ。
(ん……? あれは……人影?)
そして、私が城壁を目視してから数秒、城壁の上から、まるで私がやりましたと言わんばかりに、何者かの人影が姿を現した。
シルエットは小柄で小さく、髪の毛は金髪で通目から見ても手入れを怠っていないのが目に見える。女性としては、非の打ち所がないが、兵士としてそこまでの威圧感はない。
「おーっ、やってるやってる」
それは戦場に似つかわしくない明るめのすっとぼけた声を出した後、城壁から飛び降り、砂煙一つあげず、フワリと着地すると、ピシッと姿勢を正し、敬礼をした。
「白のクイーン、硬城蒼華! 遅ればせながら、ただいま参上しました!」
自分が白のクイーンだと、宣言して。