混沌 その8
神奈川派閥の最大火力であろう攻撃、目で見ても凄まじい攻撃だとわかるそれは、たった1人の緑タイツの女によって、ペロリと平らげられた。
もっとわかりやすく言うと、さっきまであったはずの攻撃が、右手の平に吸い込まれたのである。
「はああぁ〜!!」
当の本人、全身緑タイツの女、グリードウーマンは、手のひらから攻撃を食べた後、食後の余韻を楽しむように愉悦に悶えたような表情を浮かべている。誰もが不幸になる戦争の真っ最中で、グリードウーマンだけが、唯一気持ちよくなっていた。
「しまった……!」
それに比べて、黒のクイーン斉藤美代。つまり私の心境は、さっきまでとは一転して、ハメられた。してやられたといったマイナスな心境に包まれていた。
元々、こんな街中での戦争を長引かせることは本意ではない。街中での戦争を長引かせることは、チェス隊ならびに、神奈川派閥の兵士への信頼そのものを下げさせる行為だからだ。
それに、もしかしたら止められるかもしれないと言うことにおいての対策も十分だった。前々から地下牢獄の囚人たちのスキルや身体能力、血液型までしっかり目を通していたからだ。
だからこその最大火力。だからこそのフルスロットル。
ただ、そこにたった1つだけ、イレギュラーが存在してしまった。
それがグリードウーマンだ。グリードウーマンのスキル情報や身体能力は、最近確定した情報であったため、少し前まで私が確認していた地下牢獄囚人リストには入っていなかったのだ。
結果、グリードウーマンの強欲の手には吸収できる攻撃に際限がないようだった。先程の最大火力の吸収が、それを物語っていた。
(しまった……! 最新の情報だからこそ、確認を損なっていた……!)
しかし、自分の失敗を今更悔やむ暇はない。悔やむ時間があるのなら、その時間を失敗の払拭のために使わなくては。
瞬時に頭を切り替えた私は、すぐさまチェス隊メンバーに指示を飛ばした。
「前線を張れる者はグリードウーマンを止めなさい! 後方の者はそれ以外の相手を!」
グリードウーマンはスキルによって吸収した力の分だけ強くなっていく。だとすれば、チェス隊最大火力を吸収した今のグリードウーマンの強さはとてつもないほどになっているはずだ。
(だけど、チェス隊複数人を相手どれるほどではないはず……! グリードウーマンが成長しきる前に叩く!)
ならば、これ以上グリードウーマンの好きにさせてはならない。物理攻撃が得意な者たちにグリードウーマンを任せ、私を含めた特殊攻撃を使う者たちにはグリードウーマン以外の相手を任せる。これで行くしかない。
「うふふ……そんな必死になっちゃって……じゃ、死なない程度に遊ぶとしましょ? 彼のためにもなるし……」
こうして、犯罪者軍団VS神奈川派閥。その第二幕が幕を開けた。