混沌 その3
一旦、凍った空気を解凍するため、お互いに窓の外に映る戦いにフォーカスを合わせることにした。
「う、うわぁー! 見てくださいよ! 圧巻ですね!」
「そ、そうだな! ……俺はさっきからずっと見てるけど」
「ワン」
俺と袖女の声に反応し、ブラックが小さく鳴く。
「それにしても、お前は大丈夫なのか?」
「? 何がですか?」
「いや、神奈川派閥は元はお前の所属していた派閥だろ? こんなことになって、精神状態大丈夫かなと思って」
自分の所属している派閥からの追放。それは派閥同士で対立している現代において、人権の剥奪を意味すると言っても過言ではない。それほどまでに重い仕打ちを袖女は受けたのだ。精神がおかしくなっても不思議ではない。
「私をこんなことにした元凶がなーに言ってんですか。もともと、神奈川派閥でも仕方なくって感じで兵士やってたんで、派閥自体に思い入れなんてありませんよ。少しは友達いましたけど……」
袖女はこちらに振り向き……
「あなたといた方が、なんだか楽しそうですから」
俺が懸念していた袖女の精神状態。もし不安定なら捨てていってしまおうかと思っていたのだが、それは杞憂だったらしい。
「そうか。それなら徹底的に利用させてもらうぞ」
「はい。なんなりと」
心なしか、袖女とこれからも問題なく一緒に入れることに、安心感を覚えているような気がする。ここ最近ずっと一緒にいるおかげだろうか。とにかく、これで情報面でも健康面でも便利になると言うものだ。
心の中で、ほっと一安心していると、袖女がこちらに聞こえるように、疑問の声を投げかけてきた。
「……それにしても、神奈川派閥側はだいぶ押されてますねぇ、なんでだと思います?」
「ん? ああ……それにはおそらく理由は2つあるな。1つはこの戦争は犯罪者側からの完全な奇襲攻撃だったということ、もう1つは個人の力量。この2つが理由で、神奈川派閥は押されているんだろう」
「あーなるほど」
この戦争はもともと、神奈川派閥側から吹っ掛けるはずだった戦いを、逆にこちら側から攻めることで始まった戦いだ。無論、神奈川本部にいるのは俺と袖女だけだと鷹を括っていた神奈川兵士たちは大混乱。この序盤で一時的にでも押せるのは自明の理だ。
さらに、個人の力量の圧倒的差。神奈川派閥側の方が量は多いものの、個人の質は圧倒的に犯罪者軍団が上回っている。単純に言うと、最初に奪ったリードをそのまま押し付けるだけのパワーがあるのだ。
「問題は、ここから神奈川派閥が押し返せるかどうかだ。そして、その鍵を握っているのは……」
当然、チェス隊メンバー。
こいつらがどう動くか、犯罪者軍団を押し返せるかで、この戦争が見ごたえのあるものになるかどうかが決まる。
(さぁ、どう出る? 黒のクイーン)