混沌 その2
地下牢獄から解放された犯罪者たち対神奈川派閥。その火蓋は誰が来ると言うこともなく、お互いに息を合わせたように、全く同じタイミングで突撃することで、その幕を開けた。
「そっっラァァ!!!!」
「フォーメーション! 急いで!」
激突する両者。戦争マニアからすれば夢のようなシチュエーションの戦いは、まず犯罪者軍団優勢で進んで行った。
「ぐぎゃああ……」
「ちょ……連携が……」
「自信のない者は下がって!」
そんなこんなで始まった戦争と言える規模の戦い。それを俺は、神奈川本部の2階から眺めていた。
「いい感じにいってるなぁ」
「ワン」
俺は言葉をこぼしながら、とある部屋の棚の中にあったポテトチップスを開封し、数枚取って口の中に放り込んだ。
「むぐむぐ……」
「…………」
「むぐ……ん? どうした?」
そんなこんなでリラックスしていた俺とは対照的に、袖女は俺の隣に立って、膨れっ面で俺の顔をにらんでいた。
「どうした? じゃないですよ! せっかく思惑通りに犯罪者たちを解放して、神奈川兵士たちとぶつけられたのに、なんでこんなところにまで来てポテチ食べてるんですか! サッカー観戦してるんじゃないんですよ!?」
俺が問いかけると、まるで膨れた頬が耐えきれずに破裂したかのように、一気に言葉をまくし立ててきた。
「わかってるわかってるって」
「じゃあなんで……」
「タイミングの問題だよ。タイミング」
「タイミング……?」
「この状況下で、あの黒のクイーンが俺たちの思惑に気付かないわけないだろ? だから、混乱が起こって、すぐさま逃げるのは良くない。俺たちも戦うことになってしまう。ここは少し待つのが定石だ」
「な、なるほど……じ、じゃあ、最初に犯罪者たちの前に立って、姿を現したのは……?」
袖女の疑問はもっともだ。俺たち側としては、この混乱に乗じて逃げようとしていることをできるだけ相手には察して欲しくない。なら姿を見せる必要は無いはず。なのになぜ、俺が姿を現したのかと言うと……
「……最初に姿を見せた方が、大将感あってカッコいいだろ」
「……え? それだけ?」
「うん」
「…………」
「…………」
空気が凍った。