コントロールルーム
厳重にロックをかけられたドアの先、コントロールルームは、結論から言うと、男のロマンが詰め込まれたような部屋だった。
黒光りしたメタリック塗装の施されたゴツい使用用途のよくわからん機器、壁に何枚も張られたモニター、パソコンデスクに設置されたボタンがめちゃめちゃ出っ張っているキーボード、床に散乱した電源ケーブル。すべてが男のロマン。そして俺も男。つまり、俺の好みに刺さらないわけがなかった。
(こりゃあワクワクするな……)
心なしか、胸の奥にある心臓がドクドクと鼓動音を早めていくのが感じられる。しかし邪魔ではない。むしろ早くなった鼓動音に心地よさすら覚える。
俺はたまらず、パソコンデスクに設置されたキーボードに、誘惑されるかのように近づく。キーボードを近くで見てみると、黒いボディの上に何か特殊な塗装が施されているようで、キーボード全体に重厚感が感じられる作りとなっていた。
そのあまりにもこだわられたキーボードのエンターボタンを、試しに一度押してみる。
「うおお……」
思わず吐息が溢れる。何と言う素晴らしいを押し心地。PCゲームをやるために、ゲーミングデバイスを調べたことがあるが、この打鍵感、押した時の音。超高級なメカニカル式の青軸と見た。
メカニカル式の青軸と言えば、安いものでも10,000円以上は確実にする高級キーボードだ。本当にゲームをするためのものなら、音が小さめの赤軸が良いのだが、ここはコントロールルームであってゲームをする場ではない。それなら青軸で充分だと考えたのだろう。いいセンスだぁ。
(お、おお……おおおお!!!!)
目をキラキラと輝かせながら、その後、しばらく他のボタンをポチポチパチパチと入力していたが、不意に後ろから生暖かい目線を感じた。
「楽しそーですねぇ」
生暖かい視線の正体は、もちろんのこと袖女。生暖かい視線を送りつつ、口角を優しめに歪めながら、子供の遊びを見つめる母親のような顔をしていた。
「…………」
バカ恥ずい。なんだこれ。年甲斐もなく興奮してしまった。
時間もないと言うのに何たる失態だ。ここはどうにかしてこの興奮を抑え、すぐに地下牢獄全体に放送しなくては。
「……悪い。少しはしゃいだ……で、放送するにはどうしたらいいんだ?」
袖女は顔を変えず、あくまで笑顔を隠さず言葉を返す。
「あ、ここのボタンを長押ししながら、マイクに向かって声を出すだけですよ」
「よし、じゃあ早速やろう」
「時間もないですからね〜なんでか」
「……ノーコメントで」
袖女の煽りをいなしつつ、俺は放送用のボタンを押した。