成長
袖女のおぼろげな記憶を頼りに、地下牢獄をさまようこと数分。口ではおぼろげと言っていたが、さすがは成績優秀容姿端麗を具現化したような集団、チェス隊のメンバー……いや、元メンバーか。俺が思った以上にサクサクとコントロールルームまでたどり着くことができた。
「……あっ、着きましたよ! ここです!」
そこは他の部屋の入り口とは明らかに違った。今時のデジタルロックではなく、物理的にロックがかけられている厳重そうな作りで両開き。他にもドアが間違って開かないための作りがいくつも施されていて、どれくらい厳重な作りになっているかと言うと、視界に入れば、このドアの奥の部屋は100パーセント間違いなく重要な部屋なんだろうなとわかるほどのものだった。
「……いかにもだな。待ってろ、今開ける」
俺は袖女を押しのけ、右手のひらをドアの中心に置く。後は反射を使って吹っ飛ばすだけだ。
「反射……っ!?」
しかし、ドアは吹っ飛ぶことなく、少し物音を立てるだけに収まってしまった。なるほど、さすがはコントロールルームのドア。いざと言う時の衝撃耐性もバッチリ完備していると言うことか。
それにしても、まさか反射で壊せないとは。いつぶりだろうか。今のところ、現時点で俺の反射以上の破壊力を出せる方法は存在しない。あるとすれば、闘力操作プラス反射の鉄板コンボだが、それをぶち込んでしまうと、衝撃でコントロールルームの内部が崩壊してしまう可能性がある。
(床や壁の強度もよくわからんからな……調整が難しいが……)
闘力の量を何とか調整して、さっきよりもほんのちょびっとだけ威力を高めた反射を使ってみよう。もしかしたらそれで壊れてくれるかも。
「ちょっと! 何やってるんですか? どいて下さい」
もう一度、手のひらをドアにかざそうとすると、横から袖女が割り込んできた。
「邪魔だ袖女。お前に俺以上の威力は出せないだろ」
「そんなことしなくても、もっと簡単な方法がありますよ」
そう言うと、袖女は隊服の腰ポケットに手を突っ込み、とあるものを取り出す。
「……は? カード?」
「カードキーですよ」
カードキーを裏側にひっくり返し、無造作にドアに向かってかざすと、ドアはピッと子君良い音を立て、次に金属音とともに、何十ものロックが外れ始めた。
「……どこにカードキーなんてあったんだ? もしかして元から持ってたのか?」
「持ってませんよそんなもの。カメレオンと話していた時、ガイドさんがカメレオンに殺されたでしょう? その時に、ガイドさんのポケットから拝借したんですよ」
得意げに言い放たれた言葉に、俺は思わず、驚愕の感情を心に浮かばせる。まさか袖女がこんな機転を聞かせるようになるとは思ってもみなかったからだ。
俺の心の内をなんとなく感じ取れたのか、袖女はふふんと喉を鳴らした。
「どうしたんですか? こういう時は頭を使うんですよ頭を。あなたも昔、神奈川派閥にやっていたじゃないですか」
「……肝に銘じておくよ」
そこで、ガシャン。と金属音が鳴り、コントロールルームへのドアがゆっくりと開いた。