脱出
黒ジャケット包囲網、神奈川本部を取り囲む、大量の兵士たちを統率するため、チェス隊メンバーは1人に1つ仮設テントを立て、指示出しをしていた。
そこには階級も格差も関係なく、クイーンも例外に漏れず、配布されている仮説テントを立て、そこから戦況を観察していた。
「……もう、30分になるわね」
神奈川本部周辺、黒ジャケット包囲網は、突撃部隊として白のビショップ、榎木田純子を突入させてから、もう30分が経過していた。
「遅いですね……何かあったのでしょうか」
隣にいる凛がそう言葉を溢す。私も少し、考えるような素振りは取ったが、行動とは裏腹に、なぜ榎木田純子が帰ってこないのか、心の中では理由がわかっていた。
「仕方がないわね……ここからさらに30分待って、突撃部隊が1人でも生還しなかった場合、包囲網を縮めて、神奈川本部に全軍突撃させるわ」
「……了解しました。他のチェス隊メンバーにもそう伝えます」
私の言葉に、凛も榎木田純子がどうなったか、察しがついたらしく、一瞬目を伏せた後、本部を取り囲んでいるチェス隊メンバーに伝えるため、仮設テントの外に出て行った。
(…… 30分、とは言ったけど、本当なら今すぐにでも突撃したいのよね)
黒ジャケットのいる神奈川本部への突撃。それは何を隠そう、榎木田純子自身が望んだことであり、私が強制したことではなかった。
だが、この数日間、神奈川派閥の顔として、チェス隊メンバーを次々と失っていくのは……
(かなり……効くわね)
だからといって、なりふり構っていられない。だからこそ、全軍突撃命令を出したのだが、それの猶予に30分の間を持たせたのは、まだ榎木田純子が生きているかもと、希望を持っている……いや、希望を無理矢理自分に持たせているのだ。
非情になり切れない、黒のクイーンではなく、いっぱしの兵士としての気持ちがそこにはあった。
――――
同時刻、神奈川本部内。
「ちょっと! 待ってくださいよ!」
神奈川本部の外に出るどころか、神奈川本部のエレベーターに近づき、奥地へと逆戻りする俺の後ろから、とてとてと袖女が後をついてきた。
「早くしろ。時間がないぞ」
「早くするのはわかりますけど! あなたの言う手段って一体何なんですか! 教えてくれてもいいでしょう!」
「……利用するんだよ」
別に袖女に隠す必要性もないため、簡潔に話す。
「……利用?」
「……ここの地下には何がある?」
「地下って……そりゃ、地下牢獄が……あ」
「そうさ……解放してやるのさ」
「地下で爪を研ぎ続けてる……犯罪者どもをな」