暗躍の大阪派閥 その2
その言葉を最後に、ベドネ様からの通話は切れてしまいましたが、動揺を隠せなかった私は、失礼ではありますが、もう一度連絡を取るため、ベドネ様の電話番号を打ち込み、着信音を鳴らしました。
『はい……って、また君か。どうしたんだい? お願いはさっき言ったはずだが……』
「はい。ベドネ様からの指令は理解しております……ですが、神奈川派閥の上位層の1人である長官を殺害しなければならないのか、その意図を聞きたいのです」
私の質問に、ベドネ様は数秒ほど無言になってしまいました。今思い返してみれば、私に理由を伝えてよいのかどうか、考えていらしたのでしょう。
『……うん。君なら他の人間にこのことは話さなそうだし、いいかな』
ですが、光栄なことにベドネ様は私に理由をお話しになることを決めていただきました。
『結論からはっきり言おう……最近、神奈川派閥に入ってきた兵士である田中伸太は、2ヶ月前、僕たち大阪派閥に大打撃を与えた超戦士……黒ジャケットの可能性があるのさ』
「く、黒ジャケットですと!」
恒常的に神奈川派閥に潜伏しているので、当時現場に居合わせることはできなかったが、さすがに黒ジャケットの話は私も聞いていました。大阪派閥の1都市を丸ごと破壊し、我が大阪派閥が誇る十二支獣を4体も殺害し、あのタウラスにも一時期は動けなくなるほどの重症を与えたとんでもない強さを持つ兵士だと言うことも……
『そう。だけど、最近その黒ジャケットが姿を見せなくなってね……もしかしたら、他派閥に拠点を移しているかもしれない。そう思って、君に連絡をしたんだが……僕の予想では、その田中伸太は、何か戦果をあげているんじゃないのかい?』
「は、はい! 確かに田中伸太は、チェス隊メンバーの1人をあっけなく撃破し、相当な実力を持つ犯罪者も確保に成功しています。ベドネ様の言うとおり、田中伸太が黒ジャケットで間違いは無いかと……!」
『やっぱりね』
そこで私は体の震えを感じました。ベドネ様はどこまで見据えているんだと……
『だったら、なおのこと長官を殺すべきだね。そしてその罪を田中伸太に被せるため、僕が今から送る映像データをスマホの中に入れておいて欲しいんだ』
「はい。ですが、どうやって罪を被せるんですか?」
『もちろん、その辺も考えてあるよ。君は長官を殺した後、わざと捕まるんだ。そうすれば神奈川派閥側は君のスマホを解析するはず。スマホの中のデータを見た神奈川派閥側は、君のことなんか忘れて、田中伸太を捕まえにかかるはずだからね…… 1つ面倒臭いことと言えば、長官を殺すために、色々と情報を集める必要があることだけど……あらゆる生き物に変身できる君なら、たやすいことでしょ?』
驚くほど見事な作戦。先ほど、ベドネ様のあまりの聡明さに震えましたが、またしても、その見事な作戦にぶるりと震えました。