なぜ正体がばれたのか? その2
「……ん?」
「斉藤様、スマホが……」
神奈川本部近くに着地し、今から中に入って話を聞こうとしていた時、不意にポケットの中に入れていたスマホから通知音が鳴り響いた。
ポケットからスマホを取り出し、画面をチェックしてみるが、いつもの電話のボタンがない。どうやら電話ではなくメールのようだ。
「……? あ、もしかして……」
急に送られてきたメールに、何かあったかと少し頭を悩ませたが、神奈川本部の解析班に、犯人のスマホの解析を頼んでいたことを思い出し、少し急ぐようにスマホの画面をスワイプしだした。
先程の私の推理である裏切り者は浅間ひよりではないかと言う考えが正しければ、スマホのセキュリティを突破した中にある内部情報の中に、浅間ひよりが裏切り者である確固たる証拠が出てきてもおかしくは無いからである。
私は慣れた手つきでスマホのメールアプリを起動させ、送られてきた1番最新のメールの内容をチェックする。
「な……これは……!」
メールの内容は解析班であると言う証明文と動画へのURL。その動画を見ていると、横から凛が頭を突っ込んで、画面を覗き込んできた。
「黒ジャケットと……浅間ひより? と……なんですかこれは? 化け物……?」
凛が動画を見た感想をつぶやく。化け物、と言う感想が出てきても仕方がないだろう。何せとんでもない速度で動きまくる兎や、いろいろな性質を持つブレスを吐きまくる四足歩行の龍やら、二速歩行で人の体に牛の頭を持ったミノタウロス。端から見ればファンタジーの世界に出てきそうな怪物たちだ。
しかし、私はこういった化け物どもを作り出す組織に心当たりがあった。
「違うわよ凛。これは化け物なんかじゃない……大阪派閥が保有している兵獣よ」
「へ、兵獣……? 噂には聞いていましたが、これほどのものとは……!」
凛は兵獣の異様な姿にゴクリと唾を飲む。が、私は兵獣よりも、兵獣と黒ジャケットが戦っていて、それを眺めている浅間ひよりと言うシチュエーションに注目した。
「……って、ん? 浅間ひよりがそれを見ている……? で、兵獣は大阪派閥の兵で……ということは……」
「……気づいたようね」
浅間ひよりは少し前まで、大阪派閥の動物スキルの謎を解き明かすため、大阪派閥に単身、潜入捜査に潜り込んでいた。任務は無事成功し、盗んできたスキル情報は今もなお解析、研究が進められている。
兵獣がいて、浅間ひよりがいて、黒ジャケットがいる。この映像に写っている場所は間違いなく大阪派閥だ。なのに、浅間ひよりからは大阪派閥で黒ジャケットにあったなんて話は聞いたことがない。
しかも、凛は途中からの動画視聴だったため気づいていないが、序盤に田中伸太が黒いジャケットを羽織るのもこの目で視認できていた。
「……凛」
浅間ひよりと田中伸太の高すぎる一緒に入る確率、今回の地下牢獄への同行。解析班が発見した大阪派閥での映像。
私が抱いていた疑惑は、もはや決定的となった。
「至急、あなたの魚雷で動けるチェス隊メンバーを全員集め直して。後、神奈川本部内にいる人たちに避難勧告を」
浅間ひよりは裏切り者で、田中伸太は間違いなく黒ジャケットだ。
「あの2人を神奈川本部に閉じ込めます!!」
なら、ここで息の根を止めておかねば。