前触れ
あたり一面に兵士兵士兵士。この集まり方は普通の警備ではあり得ない。おそらく誰かに言われて、ここからくるだろうと決め撃ちされていたのだろう。
しかし、地下牢獄への出入口はもともとここにしかない以上、その程度は想定内。むしろ覚悟していたことなので、少し安心した位だ。
量は多い。後は質だが……
(ほとんどはどうってことないな……が、1人だけ、あいつは……)
俺たちを取り囲む神奈川兵士たちの一歩後ろにいる、どでかいバイクに腰掛けた人物。あれだけは別格だと、俺の脳神経が伝えていた。
「まさか口もうまいこと予想が当たるとはなぁ! 黒のクイーンさまさまだゼェ!!」
見た目は金髪で、ギラついた目と女にしては高い背丈、胸元から腹にかけてを露出させた服装に、口にくわえているタバコ……では無い。タバコの形をしたお菓子であるシガレットを口に咥えているのが特徴の人物。
あんな特徴的な人物、忘れる方が難しいだろう。そう考えた俺は、周りの兵士に聞かれないよう、小さな声で隣にいる袖女に話しかけた。
「袖女、あいつは?」
「白のビショップ、榎木田純子さんです。スキルはバイクで、腰掛けているバイクを変形させて、武器として使ってきます」
(なるほどな……)
「あのバイクは? あれ以外のバイクでも変形させれるのか?」
「バイクなら何でも。バイクの変形を除いたとしても、体術もものすごいので注意してください」
「ふーん」
聞いた感じ。かなり近距離タイプに見えるが、ここは神奈川本部。あまり暴れられない上、前線は、有象無象の兵士たちで事足りているはず。なのに近距離タイプを選んでくると言うことは……
(……何か企んでやがんな……)
「おい! 何黙ってんだよ!」
おっと、どうやら話しかけられていたようだ。
「すまない。少し考えごとをしていたんだ。もう一度言ってくれないか?」
「チッ、しゃーねぇなぁ……ゴホン……もうお前はおしまいだぜ! 田中伸太! 本部の人間は全員避難済み! 周りはチェス隊全員で包囲してるんだ! どうあがいたって無駄だゼェ!」
「なっ……」
榎木田純子の言い放ったセリフに、となりから驚いたような声が聞こえる。その声の主はもちろんのこと袖女。十中八九、自分たちの周りをチェス隊全員が包囲していると言うセリフに驚愕したのだろう。
が、よく考えてみれば、もともとチェス隊メンバーがいたのは神奈川本部から割と近い特設ステージ。何ならその後、特設ステージよりもかなり近い行きつけだった喫茶店に全員移動したため、むしろ本部から近くなっている。そんなタイミングで見つかってしまえば、チェス隊メンバーが全員揃うのは目に見えていることだ。
(ただ……チェス隊が周りを囲っていることよりも……)
本当に全員揃っているのかと言うことの方が気になる。
「なぁ、本当にチェス隊全員が揃ってるのか?」
馬鹿正直に答えてくれるわけがないのはわかっている。いるにはいるが、しないよりはマシだろうと思ってしてみた質問。
(正直、ちょっとでも何かを知ることができれば……)
「まぁ、実際のところは全員来てるってわけじゃないゼ! 本部にいた重役さんを警備するために、何人か包囲網から抜けて「あ、姐さんそれ以上は!」……あっ」
……全部知れたわ。




