警告
俺が質問しようとした瞬間、向井神木が待ったをかけてきた。別に無視してもよかったのだが、無視されることに不満を持って、そっぽを向かれてしまっては本末転倒だ。
「なんだ?」
「せっかく邪魔者を排除したのに、さっきから回りくどいことばっかり! もっと核心をついた質問をしてくださいよ! 核心を!」
はっきり言って、向井神木自身から核心をついて欲しいなんて言われるとは思っても見なかった。こんなの、自分から私は秘密を知ってますよと言っているようなものだ。
(どうする……? こいつの言う通り、どストレートな質問をするか……? ……いや、中々にリスキーだ……揺さぶりをかけてみるか……)
「……核心をついた質問を、しているつもりなんだが……」
「嘘を言いなさんなって! あの天下の黒ジャケットはんが何ビビってはるんや? さっさと言いや!」
「は……? 何?」
俺の正体を知っている人物は、死亡者を除けば袖女とハカセぐらいのものだ。それを知っていると言うことは、その時点で俺の脅威となり得ると言うこと。
最初は思いつきと直感でここまできたが、犯人との面会は結果的にとてつもないほど有意義だった。
敵か味方か、どちらにしろ、こいつは始末しておいた方が良さそうだ。
(それに口調も変だ……)
最初の方はちょっと関西弁が混ざっていただけだったが、段々と京都弁が混じってきた。
明らかに不自然である。いくら片方が大阪派閥だったと言っても、関西弁ならともかく、京都弁まで途中から使いだすのは明らかにおかしい。
しかもそれだけではない。やつは俺に向かって、黒ジャケットと言った。
(わざとやっているのか……だとしたら、何のために……?)
わからない。さっぱりわからない。
今更喋り方を変えられても、少し違和感を感じるだけで、俺のこいつに対しての疑いはちっとも変わらない。
キャラ崩壊と言うやつか? だとしたら何を焦っている?
自分の中で思考を完結できない時は、人の手を借りるのが1番だ。
俺はテーブルで隠れて、相手から見えない死角を使い、ズボンのポケットの中にあるスマホを取り出し、両手を使って文字を入力。メッセージ通話を使って後ろにいる袖女のスマホに送信する。
『どう思う?』
たった一言だけを書いたメッセージを。
「……!」
袖女は俺の送ったメッセージに即座に気づいたらしく、向井神木から目を離さず、あくまで気づかれないように、慣れた手つきでスマホをスワイプし、俺のスマホへ返信してきた。
『言った方がいいとは思います』
『お前もそう思うか』
『ええ、このままでは話が進みませんし。ですが、ここまであなたについてのことを知っているとなると、神奈川派閥の人間ではないと言うことは確実です。戦闘準備はしておいた方が良さそうですよ』
『だな』
結局、結論としては向井神木の口車に乗ると言う形になった。
もちろん口車に乗るだけではない。逆に利用し、こいつのバックにいる派閥も洗い出し、逆に情報を抜き取ってやろう。
「……わかった。お前の言う、核心をついた質問をしてやる」
「やっとその気になりましたか! さっさと言いなはれや!」
最初に見た時の冷静そうな感じとは、もはやまるで真逆。饒舌でうるさい。相手にしていて面倒臭い相手になっていた。
(ま、強さに関係はしないから、別にいいんだがな……)
純粋に強いよりはマシ。そう考えることにしよう。
「さて……言うぞ」
俺は一呼吸置き、ついに核心をつく質問を放った。
「お前は俺の正体が黒ジャケットだと言うことを知っていた……それはなぜだ?」
核心をついたこの質問。それを言葉にした瞬間……
向井神木の顔が、歓喜の表情へと歪んだ。
「言ったな……やっと……自分を黒ジャケットだと!」
それと同時に、神奈川本部中にサイレンが鳴り響く。まるで、この男が仕組んだかのように。聞いていて不快に感じるサイレンだ。
「なっ!?」
「何が起こってるんですか!?」
俺と袖女の疑問を置き去りに、さらにサイレンと連動して、向井神木の体がぐにゃぐにゃと変形。姿形を変えていく。
続けざまにおそいかかる急展開に、俺の頭は混乱状態。文字通り、加速していく展開に置いてけぼりにされていた。
続けて置いてけぼり感を加速させるように、サイレンの後に流れた放送は、俺たちの耳を思わず疑いたくなる内容だった。
『緊急指令!! 緊急指令!! 神奈川本部、並びにこの放送が聞こえている。全ての兵士たちよ!!』
『裏切り者、田中伸太と浅間ひよりを拘束せよ!!!!』