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面会

 結局、俺たちは、スマホゲームをすることなく、ただボーっと椅子に座ってガイドが戻ってくるのを待った。


 俺はじっと真上を眺める。そこにあるのはもちろん天井で、黒いこと以外はどこにでも見る天井と何にも変わりはしなかった。


 普通なら気まずくなる雰囲気だが、袖女とならお互いに無言になっていても、そこまでいづらい感じにはならない。大阪派閥で同居していた時に、お互いに無言の時間がいくらでもあったことが、俺の心の中に慣れをあたえているのだろう。


「…………」


 それは袖女も同じことらしく、変にスマホを取り出していじらず、机に頬杖をついてじっとその時を待っていた。


「…………」


「…………」


 そんな悪くない時間が流れて、3分ほど経った時、俺たちがいるガラスで仕切られた部屋の反対側に入るためのドアが、何の前触れもなく開いた。


 そこから現れたのは、予想通り、俺たちをここまで連れてきたガイドだった。まだ半分しか体を出していないところを見ると、俺たちから見えていないもう半分の体で、犯人をここまで連れてきたのだろう。


「お待たせしました……ほら、入れ」


 ガイドはもう半分の体を通路から外に出し、それと同時に掴んでいた犯人を俺たちに見えるように部屋に入れた。


「あーどうもー」


 犯人の容姿は黒髪で長髪、さらに高身長。ざっと見た感じ190センチはあるかもしれないほどで、長い髪からチラチラと覗かせる瞳は細い。いわゆる糸目と言うやつだ。


 体つきはひょろひょろとしており、とても人間を殺したとは思えない肉付き。両腕は手錠で固定されており、手出しができないようになっている。



 そして何より……この犯人は『男』であった。



(男……マジか)



 男の人口が限りなく少ない神奈川派閥にとって、男と言うのは、それだけで希少価値がある存在である。どんなに不細工でも、性別が男と言うだけで、普通以上の生活はできるはずだ。その男が神奈川派閥のキーマンである長官を殺すとは……


「あー……あなたが長官を?」


「ええーまぁ、あ、僕、向井むかい神木かみきって言います。どうもー」


「え、あー……」


 先に質問をした袖女の目が俺の方に向く。名前を言ったほうがいいか迷っているらしい。


 個人的には別に言ってもかまわん。なので俺はコクリと頭を縦に振り、了承の返事をした。


48行目の12文字目「……私は黒のポーン。浅間ひよりです。あなたに情報を流した内通者の正体を暴くため、話を聞きに来ました。そして、こちらの方が――――」


「田中伸太さん……でしょ?」


「! なっ……」


(俺の名前を知っている……か)


 ちょっと前もこんなことがあったっけ。俺の名前も大きくなったものだ。


 この手の展開には慣れたものだが、いかんせんこのタイミングで名前を知られている人物が現れるのはまずい。俺に変な疑いがかけられかねない。


「どこで知った?」


「そら秘密ですよ。ヒ、ミ、ツ!」


「…………」


 俺はチラリとガイドの方に目を向ける。ガイドは部屋から外に出る気配はなく、あくまでここにいる構えだ。


(ちっ……)


 話を聞かれている人物がいる以上、神奈川派閥外のデリケートな質問はしづらい。遠回しに質問をするしかない。


(結構な長丁場になりそうだな……)


 少なくともガイドが許してくれる時間いっぱいは使わざるを得ない。そう思ったその時だった。


「面倒くさいなぁ」


 向井神木は頭をポリポリとかいた後、そう呟いた。


 そして、顔をガラスについている穴ギリギリまで近づけ、ガイドに聞かれないような小さな声で話しかけてきた。


「なぁ、あのガイド、邪魔やと思いませんか?」


「え?」


(何言ってんだこいつ。ガイドがいなくなって、得をするのはこちらだけだぞ)


 ガイドがいなくなる。それはすなわち、お互いのどちらかが危険な状況になった時、止める役がいなくなると言うことだ。そして今は2対1。殴り合いになったとしても、まず負けはない。


 そんな状況でこの提案をしてくると言うことは、よっぽど腕が立つのか、はたまた自信があるだけか……


「……ああ、邪魔だな」


 こちらにデメリットは一切ないため、提案に乗っておく。


 俺の返事を聞いた向井神木は、目を輝かせると、先ほどとは打って変わって、ガイドにも聞こえる大きな声で言葉を発した。


「ですよねですよね! じゃあ邪魔者は排除せんとな!」


 すると途端に向井神木はガイドの方に振り向き……


「ベェッ!!!!」


 ガイドに言葉を出させる暇もなく、口から舌を槍のように飛ばし、ガイドの体を貫いた。




 

 


 

 



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