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地下牢獄

 エレベーターが動く時の浮遊感。それは人によっては気持ちの悪いものであり、いつまでたっても慣れることはなく、俺の体に薄気味悪い感覚を与えてくる。


(まだか……? もう5分近く経つぞ……)


 俺自身、エレベーターの浮遊感は、特段得意といったものではないが、特段苦手と言うほどでもない。あってもなくてもいいものだが、それもここまで長く続くと嫌になってくる。


(おえ……)


 長く続く浮遊感に、少しえづき始めた瞬間、エレベーターが指定の階に着いた時特有の音が流れ、ドアが開いた。


「お進みください」


 ガイドの声に従うまま、俺と袖女はエレベーターから出て、地下牢獄へと足を踏み込んだ。


「おお……」


 まず、地下牢獄に入ってみて、頭の中に浮かんだ言葉は、真っ黒。と言う3文字だった。


 神奈川本部は真っ白で清潔感のある内装になっていたが、その真下、地下深くの地下牢獄はその真逆、黒光りした床や壁、犯罪者たちが習慣されているであろう牢獄ですら、黒くメタリックな作りになっていた。


 しかし、ただそれだけなのだ。ほかに何か装飾品があったり、警備員がいると言うわけでもない。ただ黒く、通路の両脇に牢獄が設置されている。ただそれだけだ。


「なんにもないな……」


「……そういえば、あなたはここに来るの初めてでしたね」


 誰に聞かせるわけでもない、ぼそっと溢した言葉に袖女が反応する。


「え? ……ああ、グリードウーマンの時も黒のクイーンに持っていかれたから……来たことはないな」


「覚える必要もないですよ。私でもめったに来ませんし」


 袖女と会話をしながら、ガイドの後ろ姿を頼りに地下牢獄の通路を数分歩いていると、ガイドの後ろ姿がドアの目の前でピタリと止まる。どうやらここが目的地のようだ。


「ここが面会室です。犯人はすぐに連れて来ますので、先に入ってしばしお待ちください」


「はい」


「了解です」


 俺たち2人が返事をすると、ガイドは俺たちに向かってペコリと頭を下げ、通路の奥へと消えていった。


「私たちも入りましょうか」


「そうだな」


 ドアのそばに近づくと、ドアは俺たちの床を踏む振動に反応し、勝手に開く。


 面会室の中は裁判もののドラマやゲームで見たものと同様、ガラス板で仕切られており、向かい合って座る場所にだけ、お互いの声が聞き取れるように無数の小さな穴が空いていた。


 そして始まる待ち時間。普通なら退屈に感じる時間だが、俺のこころはむしろ高揚感を感じていた。


「さて……どうするか」


「? どうするも何も、普通に待ちましょうよ」


 わかっていないな。全く以てわかっていない。


「こういう時の待ち時間こそ、何かをやった方がいいんだよ」


 高校にいた時も、授業の始め、先生が来るまでの待ち時間によそごとをしていた。


(……友達いなくて1人でしてたけどな!)


「……じゃあ、何をするんですか?」


「ふっふっふ……」


 伊達に高校時代、何度も何度もよそごとをしていない。こういうときにやる何かのアイデアなど、無数に……





 そう、無数に……





 …………





「……スマホでゲームでもするか」





「結局何も考えてないじゃないですか」





 うるさい。あの頃は1人でやってたんだ。



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