仕込みと情報
「それにしても……よくこんなことを思いつきましたね」
「まぁ……備えあれば憂いなしってやつさ」
俺は袖女に上級ポーションを渡しに行くため、ステージ内の倉庫を襲撃していた。
あの時に倉庫を守っていた警備員たち……袖女に渡したスマホの出所は、その警備員から拝借したものだった。
しかし、スマホにはもちろんのことロックがかかっており、ロックを解除することは不可能に近かった。
だが、このスマホを持っていた警備員のポケットの中には、スマホだけでなく、財布も入っていた。財布の中身をチェックしてみると、そこにはお金だけでなく、スマホのパスワードが記載されたメモも入っていたのだ。
これは狙ったわけではない。単なる偶然だが、神奈川派閥に正体をバレるわけにはいなかい身としては、1つでも、通信が可能な端末が手に入るのはとてつもないほどのメリットがあった。
何かに使えるかもしれない。そう思い、自分の身に忍ばせていたのだが、まさか手に入れたその日にすぐさま使い道が生まれるとは思ってもみなかった。
俺は袖女とともに高層ビルから出発する前に、あらかじめ袖女に俺のスマホからの電話がつきっぱなしの状態の警備員のスマホを手渡しておいたのだ。
警備員のスマホなら神奈川派閥のものであるため、俺のスマホを渡しておくよりはいいと考えての行動である。
そしてそれは見事功を奏し、袖女は疑われることなく、店内に侵入。俺はラーメンをすすりながら、店内で行われた買い物全てを聞き取ることに成功したのだ。
「話を戻すが……今回の件、少しおかしな点がある」
「おかしな点……ですか?」
袖女は俺の言葉にコテンと首をかしげる。ブラックも袖女の真似をして、首をかしげていた。
「ああ、あまりにもバレすぎているんだ」
俺は続けざまに言葉を綴る。
「その裏切り者ってやつは、神奈川派閥と言う日本でも最上位の派閥の中を好き勝手している……証拠の隠滅だって、得意中の得意のはずだ。犯人に送ったデータを削除しておくことを言っていてもいいはずだ」
「……その時だけうっかり忘れていた、と言うのは?」
「そのうっかりがないから裏切り者と言うのは成立する……その可能性はゼロだ。つまり……」
「……裏切り者は、こちらに裏切り者がいると思わせるために、ワザと証拠を残した……と?」
「それ以外ないだろう」
しかし、これは憶測に過ぎない。証拠もなければ根拠もない。犯人の口から話を聞いていないしな。
「……袖女。お前、犯人と話はできるか?」
「え? ああ……特別任務を任されましたし、できなくは無いでしょうけど……まさか、あなた……」
「ああ……この事件の犯人に、興味が湧いてきた」