盗聴
「ただいまっす。今帰りました」
体のチェックから40分後、ラーメンを食べ終えた俺は、ブラックを肩に乗せ、喫茶店へと戻ってきていた。
「あ! お帰りなさい……って、ん? なんかニンニクの匂いが……」
「あー……警備途中にラーメン屋とかもあったんで……店の匂いがついちゃったのかもしれませんね……はは……」
あっぶねえばれるとこだった。いやまだ疑っているな。どうにかして意識を逸らさねば……
「……って、そんなことよりも喫茶店の中はどうなったんですか?」
「ん……ああ、そのことなんですが……」
(よし話題を逸らせた)
俺が心の中で密かにガッツポーズをとっている間にも、相手側の兵士の話は続いていく。
「どうやら田中伸太様が見回りに行っている間に、喫茶店内での出来事はあらかた片付いたようでして……チェス隊の方々は全員お帰りになられたんですよね」
(もう帰った……? 長官とか言う重役らしき人物が殺されたんだぞ? そんな早く帰るか?)
もうみんな帰ったことに、一瞬疑問を覚えたが、神奈川派閥は技術力が他の派閥と比べて高いことで有名だ。持ち前の技術力を使って超速で現場を調べあげたのかもしれない。
「そうですか……では帰ってもいいんですか?」
「あ! ちょっと待ってください! ……お帰りになりましたよー!」
兵士は俺を引き止め、喫茶店に向かって声を上げる。すると、喫茶店のドアがガチャリと開く。
「……やっと帰ってきた」
「おま……あなたですか」
ドアから出てきたのはもちろんのこと袖女。どうやら喫茶店の中でやることを終えた後、俺が戻ってくるのを待っていたらしい。
(この人も待っていてくれたのか……じゃ、お礼を言っとかないとな)
「ありがとうございます。待っていてくれて」
「あ、いえいえお構いなく! それを言うなら黒のポーンに言ってあげて下さい」
「それだけは嫌です」
「え?」
「は?」
「おっと失礼」
危ない危ない。つい本音が。
「はぁ……まぁいいです。行きますよ」
「へいへい」
「お二人ともお気をつけて!」
兵士に見送られ、俺たち2人は喫茶店を離れる。
向かう先は10分ほど歩いた先にあるペットが大丈夫なマンガ喫茶。店内に入ると、2時間のコースを頼み、2人と1匹で個室に移動した。
「ふーっ……それで、あなたなんですか?」
「ん? 何が?」
俺の反応が不快だったのか、袖女はムスッとした顔になって言葉を返す。
「とぼけないでください。長官の殺害ですよ。あれってあなたがやったんですか?」
「やってねーよ。初めてわかった時、俺も驚いてただろ? 何より、長官が殺された時間は俺は寝てたんだ。どうやったって無理だよ」
「まぁ……そうですよね」
そう、本当に謎なのだ。
黒い正方形のことはともかくとして、今回の長官殺害の件はマジで心当たりがない。
「……で、私たちチェス隊の会話を聞いて、何かわかったことはありますか? 盗聴犯さん?」
袖女はそう言いながら、ポケットの中に仕込まれた警備員のスマホを取り出した。
盗聴に使われた警備員のスマホを見て、俺はニヤリと笑う。
「収穫はあったよ。確実にな」